〈こちらはもう一杯一杯なので、小さな音でも我慢ができなくなっています〉

 5年前の2016年12月。ある女性(40代)の自宅マンションに手紙が届いた。それは自室のドアのポストに入れられていた。中身は、このような始まりだった。女性の自宅はマンションの5階。差出人は、階下の4階に住んでいた男性だ。

(写真はイメージ) ©iStock.com

「ベランダからよじ登って刺しに行きたい」

「男性は、その年の8月に引っ越してきて、洗剤を持って挨拶に来ました。私も、『こちらこそよろしくお願いします』と言いました。なんとなく変わった感じの雰囲気で、挙動不審でなにか話をするわけでもないのに、なかなか帰ろうとしませんでした」(女性)

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 男性の見た目は40代、身長は170センチくらい。体格は痩せても太ってもいない感じで、背筋が丸まっていた。神経質で、コミュニケーションの距離感がつかめない感じだったという。

 このときから、手紙が届く12月までの間に、男性は何度も女性宅の呼び鈴を鳴らした。女性が帰宅すると、すぐに男性が訪れたことが多かった。そして、「僕の(部屋の)音が気になりませんか?」「お風呂の音が気になりましたか?」と聞いてきた。12月に手紙をもらう前には、「僕が壁を叩いているのに気づきませんか?」と聞かれたことがあった。

「音は気になりましたが、(階下の)男性宅から聞こえてくるとは思っていませんでした」(女性)

 こんなことも言われたことがあった。

「音が気になりすぎて、ベランダからよじ登って刺しに行きたいと思いましたが、今は、思いとどまっています」

 女性は怖いというよりも、気持ち悪さを感じていた。そんな中で冒頭の手紙が届いた。続きはこうだ。

〈先ほどの音が聞こえた後、医者からもらった薬を飲みました。少し楽になりました。ですが、用法・用量が決められているので、いつでも飲めるというわけではありません。

 居留守を使われるのはあまり気分がいいものではありませんが、逆ギレされるよりは良いと思います。逆ギレなどされたら、こちらはもう何をするかわかりません。(初めは「このくらい耐えられる」と思っていましたが、)長時間・長期間に及ぶお宅の足音に追い詰められて、もはやギリギリのところにいます。もう一杯一杯です。これ以上踏みとどまるのは不可能です〉

 と書かれていた。流石この日は、警察に相談すると、「すぐに逃げてください。子どもを連れてホテルへ避難してください」と言われた。警察が用意をしたホテルに、家族で行くことになった。

実際に送られてきた手紙

「この段階では本当にそういうことをするのかはわかりませんでした。でも、手紙が異様な内容でした。そのためか、警察は顔見知りのトラブルと思ったのでしょうか、『本当に(男性に)見覚えがないのか?』と聞かれました」(女性)

警察の勧めで子どもとホテルに避難

 警察が用意をしたホテルは窓もなく、「廃墟のような場所」と感じたため、途中で別のホテルを取ったという。このとき、警察は男性の家に出向いていた。