これほど急速に世の中の仕組みがガラッと変わるとは、誰も予測していなかったのではないだろうか。しかし、必要に迫られたとはいえ、人間は短期間の間に生活スタイルを激変させた。その順応性の高さには驚かされるのだが、なにぶん短期間での大変換だったこともあり、そこに歪みも生じている。

 代表的なのが「リモートワーク」。会社に行かない生活に馴染めずに苦しむ人がいる一方、自宅から出ない生活を満喫している人もいる。

 ただ、在宅勤務に体が慣れてしまうと、今度は元の生活に戻れなくなるのではないか、と心配する人も出てくる。今回は、そんな心配性な人のお話です。

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「コロナ禍が収束したら、果たしてやっていけるのだろうか…」

 IT関連企業に勤務するEさん(34)は、コロナ禍による在宅勤務が1年を超えた。元々人付き合いが活発な方ではなく、会社や得意先に行っても地味に過ごしているタイプ。リモートワークは彼の性に合っていたようだ。

 ところが最近、彼は不安にさいなまれている。

「コロナ禍が収束して通勤が再開したら、果たしてやっていけるのだろうか……」

©iStock.com

 リモートワークとはいえ、月に1~2回は会社に顔を出さなければならない。最初のうちは嫌々ながらも“出勤”ができていたのだが、最近は体が強い拒否反応を示すようになったのだ。

「出社日の前日あたりから体調不良が始まり、当日は起きた瞬間から体がだるく、頭が痛い。電車に乗るとさらに気分が悪くなり、吐き気を催して途中駅で降りて休憩することもある。たまの出勤でこのざまなのに、毎日出社するなんてとても……」

 会社に行かなくなったことで彼が得たメリットは多い。作業中に話しかけられることが苦手だった彼にとって、気まぐれに仕事や雑用を任せてくる上司のストレスから離れられたことは大きく、いつも断っていた飲み会もそれ自体がなくなったことでストレスから解放されたように感じるという。

 彼自身、会社にいれば人付き合いが必要なことは理解している一方で、それが「嫌い」な自分もよく分かっており、かといって「独立してやっていこう!」というタイプでない自覚もある。

 仕事に対する姿勢は誰よりも真面目で、任された仕事は期限内にきちんと終わらせるため、人付き合いは悪くても周囲の評価は悪くなかった。そんなEさんにとって、リモートワークは最適な労働環境。まさに「水を得た魚」のようだ。