動物たちが話していた通り、CSとは素晴らしいものでした
その瞬間、ハマスタの男と女の中にかつて味わったことのない感情――今までCSを知らなかったという羞恥心、CSなんて行けなくても楽しく野球観戦できるのにという自己防衛、どうして私たちは今までCSに行けなかったんだという怒り、ペナント終了後にこんな楽しい時間を過ごしていたのか他のチームはという嫉妬、今はなきあの選手もこの選手もCSの舞台に立たせてあげたかったという悲しみetc……様々な感情がむくむくと湧き起こりました。
動物たちが話していた通り、CSとは素晴らしいものでした。長く「台風の目」という称号を与えられ続けてきたハマスタの男と女は、夏場を過ぎても野球に、順位にドキドキするということを知りました。短期決戦の難しさと勝ったときの途方もない喜びを知りました。平素はクールなイメージのカジタニが骨折を押してまで試合に出る姿を見て、涙を流しました。代打ミネイが迷うことなくバットを振りぬきレフトへタイムリーを打つ姿を見て、絶叫しました。当代随一と言われる代走を、タナケンが鋭い牽制でアウトにしたとき、驚きで言葉を失いました。長くハマスタの園に住む者も、最近ハマスタにやってきた者も、ただ一つ同じ方向を見ていました。それは「夢」と呼ばれるものでした。
しかし、これを知った神は激怒しました。神の言いつけを破ったハマスタの男と女に、神は新たな試練を与えたのです。それは「悔しさ」でした。CSに出られない悔しさ、CSで勝てない悔しさ、一度CSを知ってしまった者が今後一生背負わなければならない十字架を、神は与えたのです。それまで順位表にはモザイクをかけ、スポーツニュースはすっ飛ばして、安らかな暮らしを保っていたハマスタの住人たち。彼らに「勝ちたい」というエゴが芽生えたのです。
2016年に初めてCSを食べたハマスタの住人。最下位の安住と引き換えに、彼らは「優勝」という夢を手にしました。実質ではなく、本物の。そして誰もその夢を笑わなくなりました。そして2017年、すんでの所でまた禁断の果実を口にする。かつて彼らを支えていた「ファンフェスの果実」でさえも、CSの魔力には勝てないのです。もう後戻りはできない。のんびりと誰かのCSを、誰かの日本シリーズを、楽しむことはできないのです。そしてそれがどんなに幸せなことであるかを。
やがてハマスタの住人たちは、朝日とともに一斉に西に向かうでしょう。青き衣を身にまとって。そのくちびるはこう動く。
「されば港の数多かれど、この横浜にまさるあらめや」
対戦中:VS 阪神タイガース(山田隆道)