現存建造物が多く、設計の妙がわかる
15棟の現存建造物のうち11棟が本丸内に密集しているため、天守だけがぽつんと現存する城とは異なり、本丸内に建物がどのように配置され、どのように機能していたかがよくわかります。しかも、天守は全国に現存する12棟のうちのひとつで、本丸御殿は全国で4棟しか現存しない城郭御殿のひとつです。
本丸はさほど広くなく、いびつな形の区画に建造物が配置され、それぞれが塀で連結されています。塀には狭間、建造物の床面には石落としが設けられ、防御は万全。矢狭間塀に設けられた横連子の武者窓は「物見窓」と呼ばれる防御施設で、狭間よりも監視範囲を広げられます。
構造上の見どころは、鉄門跡を抜けた正面の詰門。本丸と二の丸を分断する堀切を塞ぐように築かれ、1階と2階が立体交差する珍しい設計です。1階出入口の扉の位置が筋違いなのは、簡単に通り抜けられないための工夫。詰門と呼ばれるのは、1階に籠城用の塩蔵、2階に家老や中老の詰所があったためです。2階の橋廊下の出口は埋門(うずみもん)のようになっていて、頑丈な扉で守られます。いざというときはこの橋を壊せば封鎖され、この道が閉ざされれば本丸にたどり着けません。
高知城の天守だけに現存する「忍び返し」も必見です。天守1階北面に設けられた鉄製の串のようなもので、侵入者を防ぎます。美と共存する戦闘的な工夫に、城の本質を感じずにいられません。
撮影=萩原さちこ
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高知城をめぐる旅の模様は、「文藝春秋」6月号の連載「一城一食」に掲載しています。
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