ゲノム編集技術により双子を誕生させたという衝撃のニュース
「技術について一般の人々に説明し、その使用についての規制や指針作りに向け市民と協働することは開発に携わった科学者の真の責任である、との私の考えに賛同してくれたのです」
ダウドナは、「社会の反発を引き起こすような応用」への強い懸念も口にした。その例として、両親が好む外見や能力を持つようにゲノム編集された「デザイナーベビー」の誕生や、患者に害を及ぼすような未熟な臨床研究、自然環境にダメージを与える生物を作り出すこと─などを挙げ、こう語った。
「それらは『ゲノム編集そのものが悪い』として全ての応用を否定するような社会的批判を招く危険性があり、阻止しなければなりません」(2018年9月24日付毎日新聞朝刊より)
しかし残念ながら、彼女の懸念はその年のうちに現実となってしまった。11月下旬、中国の研究者がCRISPRを使って遺伝子改変したヒト受精卵から双子を誕生させたという衝撃のニュースが流れたのだ。
その研究者、南方科技大学(広東省深圳市)の賀建奎(フー・ジェンクイ)・副教授(当時)は数日後、香港で開かれた国際会議に登壇し、スライドでデータを示しながら「臨床研究の成果」を発表した。エイズウイルス(HIV)への感染予防を目的に、男性がHIV陽性、女性が陰性の不妊治療中の7組のカップルの受精卵計31個にゲノム編集を施し、7割で改変に成功、一組から双子の女児が誕生したという。
父親がHIV陽性でも、体外受精時や誕生後に子の感染を回避する方法はすでにあり、賀が試みた遺伝子改変に医学的な妥当性はない。そして生まれた双子にとって何より問題なのは、安全性が確立されていないということだ。