「私は、私は部下を……死なせてしまいました!」
静まり返った法廷に、男のむせび泣きが響いた。
声の主は、茨城県龍ケ崎市の元契約検査課長、島田眞二被告。同市の公共工事を巡る入札情報を漏洩したとして、官製談合防止法違反の罪に問われた初公判(5月25日)でのことである。
今後の身の処し方を尋ねる弁護人からの質問に粛々と答えていた被告人が、唐突に口にした告白に、裁判長もにわかに目を見開いた。
筆者は、明らかにされていない事件の核心が、当事者の口から語られるのではないかと、証言台に座る島田被告の背中に対し、思わず身を乗り出さずにはいられなかった。
まずは簡単に事件の経緯を振り返っておこう。
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龍ケ崎市でおきた複数の官製談合事件
人口約7万6000人の市政の中枢、龍ケ崎市役所に警視庁と茨城県警の合同捜査本部によるガサが入ったのは、3月3日のことだった。
「昼休みを終えたくらいにいきなり職場に10人ほどのいかつい捜査員が踏み込んできた。ほとんどの職員は、何が起こっているのか見当もつかず、オロオロするばかりだった。職員らがコトの次第を把握し始めたのは、家宅捜索が始まって1時間ほどして、ネットに事件の速報が流れてからです」(居合わせた市役所の現役職員の男性)
同日午後4時ごろ、読売新聞オンラインは次のような記事を配信している。
「警視庁と茨城県警は、同市副市長の川村光男(茨城県龍ケ崎市)と市社会福祉協議会理事の川北恵一郎(同)の両容疑者を官製談合防止法違反(職員による入札等の妨害)容疑で逮捕した」
約5時間におよぶ捜索が終了した直後、中山一生龍ケ崎市長は記者会見を開き「あってはならない事案が発生したことを深くお詫びする」と陳謝した。
この日以降も、物々しい空気が龍ケ崎市役所を飲み込み続けた。警察は市役所の地下食堂を「作業スペース」として占有したうえ、龍ケ崎署や市内のホテルに数十人に及ぶ市職員を参考人として呼び出し、聴取するということを続けていたという。
そして24日、東京地検は、昨年12月に行われた市立中学校のプール塗装改修工事など6件の一般競争入札への参加を予定していた業者名を漏えいしたとして、川村と川北を起訴した。さらに、両名と共謀者として、前述の島田は在宅起訴され、市長公室参事の大久保雅人も略式起訴(罰金50万円)された。