田中邦衛のキャリアを振り返ると、一九七五年の出演映画がとりわけ異彩を放っていることに気づかされる。
二月公開『仁義の墓場』では麻薬に溺れて常軌を逸した謎のアウトロー。そして四月公開『県警対組織暴力』では刑務所で親分と懇ろになり出所後は側近に収まる物腰の柔らかいヤクザ、六月公開『暴動島根刑務所』では豚の飼育に勤しむナイーブな囚人、八月公開『暴力金脈』では大物の総会屋、十二月公開『トラック野郎 爆走一番星』では「ボルサリーノ2」を自称するキザなトラック運転手――。
出演本数も物凄く多いのだが、演じる役柄の幅も途方もなく大きく、しかもいずれの作品でも強烈なインパクトを残している。「一九七五年の田中邦衛」を追うと、いかに日本映画で重要な役割を果たしてきたのか、よく分かる。
そして極め付けは、今回取り上げる『アフリカの光』だ。同じく七五年の六月に公開された作品である。
順(萩原健一)と勝弘(田中)という二人の男が真冬に北の港町にやって来るところから物語は始まる。二人はこの地から出る船でアフリカに渡航することを目指していて、その資金稼ぎのために働くことに。神代辰巳監督=姫田真佐久カメラマンのコンビならではの淡いタッチで、二人の日常が楽しくも切なく映し出されていく。
何より印象的なのは、二人のイチャつきぶりだ。
この時期の萩原健一は『勝海舟』『傷だらけの天使』がそうであったように、女性以上に男性を相手に芝居している時が微笑ましい多幸感が放たれる。本作でもそれは遺憾なく発揮され、しかも相手の田中邦衛がノリノリで受けているため、二人のラブストーリーにすら思えてくるのだ。
たとえばホステス(桃井かおり)と三人で身体を重ねるシーンでは、ホステスが風呂に入っている間に二人はベッドの上でキャッキャッとはしゃぎ、田中の腕枕に萩原が寄り添ったりもしている。この時の二人の心から楽しげな表情を観ていると、こちらまでなんだか心地よくなってきた。
やがて勝弘はイカ釣り漁船で働き過ぎるあまり高熱を出して寝込んでしまう。順はその介抱をするのだが、ここでの二人の芝居が素晴らしい。
順は勝弘を銭湯に連れていくのだが、赤ん坊のように抱っこしたまま運ぶ。そして風呂場でもまた抱っこ。この時に萩原を見て微笑む田中邦衛の笑顔がとにかく幸せそうで、その可愛らしい様はまるで「恋する乙女」。思わず、キュンとくる。
今は亡き名優同士による絶妙な掛け合い。ぜひとも堪能していただきたい。