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 毎回、同じ者たちが鳥カゴに入れられる訳ではない。ローテーションで入れ替わっていくが、前回と同じ者と一緒に運動をすることもある。しかし、今日は初めて見る顔が鳥カゴの中にあった。1人は痩せた初老の人で、なぜか刑務服を着ている。ここにいる者たちは、まだ刑が確定していない未決収容者なので私服を着ているが、この人だけは刑務服を着ていた。薄着なので、とても寒そうだ。もう1人はガタイの良い兄ちゃんで、この寒い日に短パンで元気に運動をしている。ふくらはぎには筋彫りで、龍の刺青が入っていた。俺は、爪を切りながら2人に「おはようございます」と挨拶をしたが、初老の人は無視をして、ぼんやりと空を眺めている。兄ちゃんは、手足を開いたり閉じたりして飛び跳ねながら、元気良く「おはようございます」と言って、鼻水を垂らしている。なんだかとても楽しそうで、子供のように飛び跳ね続けている。

「いやぁ~、うれしいっすよ」

 鼻水を垂れ流したまま、それを気にすることなく笑顔で言った。関西弁だ。

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「どうしたんですか?」

 まだ飛び跳ねている。ちょっと精神的にヤバい系なのかもしれない。

「いやぁ~、1年以上ずっと運動も1人やったんで。ここに来てから面会以外で他の人と会うの初めてなんすよ」

「えっ! ずっと1人?」

「はい。それと、裁判で無期やと思ってたら求刑15年で、うれしくてうれしくて」

「ムキ! ジュウゴネン!?」

 無期が15年になって大喜びをしている。俺なんか3年か4年か5年か、と絶望していたのに。

「まさか、殺すなんて思ってなかったんすよ」

「自分、殺人の共犯で、主犯が2人殺ってもうたんです」

 この兄ちゃんは、バラバラ殺人事件の共犯者だった。主犯は生きたままの人間を、チェーンソーで首を切断して殺してしまったという。

「なんで、殺してもうたん」

 初老の人は、鳥カゴの端の方で空をずっと見ている。オヤジもいない。俺たちは、周りを気にせずに話をすることができた。

「まさか、殺すなんて思ってなかったんすよ」

©iStock.com

 ある日、姫路少年刑務所で知り合った友人から連絡があり、金になる仕事があると話を持ちかけられた。シャブ以外の仕事なら引き受けてもいいと返事をして、関西の地元の連中と東京に向かった。仕事の内容は、タタキ(強盗)ということだった。ある店に強盗に入るのだ。その店では、闇でシャブを扱っているので、タタキに入っても警察は出てこない。店の人間を脅して、なんなら殴りつけて、店にある金をすべてかっさらっていく。ただそれだけの仕事のはずだった。東京で友人から、この計画に参加する者を紹介された。それが主犯の男だった。