2021年5月12日からの緊急事態宣言延長が決まった際、映画館は自治体からの休業要請が継続された(その後、自治体からの休業要請が一部緩和されたことをふまえ、ほとんどの映画館は6月1日より営業再開)。役者が飛沫をとばす劇場の営業は再開されたにもかかわらず、映画館の休業要請が継続されたことについて、映画ファンの間から大きな疑問の声が寄せられたことは記憶に新しい。

 その一方で、フランス映画を中心に配給・製作を手がける髙野てるみ氏は、コロナ禍以前から“映画館離れ”が進んでいることを実感していたという。ここでは、同氏の著書『職業としてのシネマ』(集英社新書)の一部を抜粋。映画館という場所の魅力、そして映画館離れが進みゆく現状を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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今、映画館で観ることの意味

 新型コロナウイルス感染拡大という、100年に一度ともいわれる伝染病の災禍において、映画は大きな痛手を受けることになった。

 映画製作の進行が止まったのは、なにも『ミッション・インポッシブル』シリーズ最新作を進めていたトム・クルーズだけではない。私の周囲の映画監督も、新企画がいったん保留になったという。

 カンヌ映画祭も、国内のイタリア映画祭、フランス映画祭も延期になった。

 最新作の映画の試写会も同様で、再開なるも今も予約制であったり、リモートでの視聴となっている。以前には考えられなかったことだ。

 緊急事態宣言時は、インタビューができなくなり連載は一時期止まってしまった。今はリモートでのインタビューが新常識でもある。

「撮影込み、4媒体で40分、よろしくね」

 というような、過酷な条件の中で、来日する大物映画人たちのインタビューに意欲を燃やしていたことが遠い過去のように思える。

 しかも、紹介する新作映画の公開自体が延期になってしまうという最悪の事態にも見舞われたのだ。

 本当に映画さながらのこの事実。SF映画もぶっ飛ぶくらいに、新型コロナウイルスはしたたかで、近年のグローバル化を誇っていた我々人類の弱点を知り尽くし、さまざまなワザを見せつける。

 前置きが長くなったが、何しろ映画産業にとって最悪の影響は、誰にとってもわかるように、まず劇場に及んだ。大勢が大挙して1カ所に集まることを禁じられたり、リスクが伴うということになったのだから。監督がいなくては映画が生まれないことは述べたが、その映画を上映する映画館に行く自由が危ぶまれることなど、予想だにしなかった。