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「途中で映画を止められないから」「LINEが溜まっちゃうんだよね」…現役プロデューサーが語る“映画館離れ”のリアル

『職業としてのシネマ』より #2

2021/06/14
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 今回、映画から学べることは何かないのだろうか。「歴史は繰り返す」ということだけを教訓としなくてはならないのか。

 映画館で映画を観ることができず、映画館も機能しないうちに廃業となることの危機がこの時期、訪れようとは……。

「おうち」で観る映画の楽しさ

 とは言え、コロナ以前に、映画の観方は、すでに多様化し始めていた。

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「もう、映画館には行かないですよ。行ってる時間がないんです。ウチで観るのが楽しい」

 これは、VHSやDVDが市場に出現し、映画館に行く人口が減るに違いない、ビデオ・メーカーは映画産業の敵だ、などと言っていた時代の言葉ではない。もはや、DVDメーカーの脅威にもなっているVOD、動画配信による劇場用映画の楽しみ方を知ってしまった、私がよく知る写真家のリアルな言葉である。彼もまた「おうち鑑賞者」になってしまったのだ。

 これを何気ない言葉として聞き流すわけにはいかない。映画配給の仕事をしている者としては、もう配給とそれに伴う宣伝もいらなくなりそうでもあるからだ。

 作品にもよるのだが、劇場公開された最新作は目玉作品であるから有料だが、旧作など無料で観ることができる作品もあるのだから無理もない。え、あの巨匠の不朽の名作が無料で……と知って悲しくなるのは私だけだろうか。

 配信会社オリジナルの作品も製作されていて、それがすこぶる面白いシリーズになっていて見逃せないと聞く。これも無料の場合あり。だから、映画館に行く時間がないほど、毎日映画を楽しんでいると言われたら言葉もない。

©iStock.com

 先に述べたように、映画配給の仕事は、基本的に買い付けた新作映画を劇場にブッキングする交渉から始まり、上映するにあたり劇場とともに宣伝活動をして、上映の場に観客を動員する役目がある。

 もし、劇場がなくなって、それなら配信があるさ、ということになったなら、私の仕事は作品買い付けをした後、配信会社に行き、VOD権の販売について交渉するだけだ。宣伝の必要もなさそうだ。

 ということは、別に配給・宣伝という仕事などなくてもよさそうではないか。

 まあ、観客、視聴者の皆さんが、映画館よりリーズナブルな価格で、例えば、トム・クルーズ最新作をステイ・ホームで観ることができるなら、配信で観るほうを歓迎する方々も少なくはないかもしれない。

大型館で観る至福

 確かにコロナ禍以前から、映画館で観る層が減ってきていることは実感していたことだ。

 例えば、私は少女時代から、ハリウッドの超大作は大型館で超満員の観客と一緒に観ないと気が済まない。あのむせ返るような興奮のるつぼを共有してこそ、最大限楽しめるのだ。そして、両隣、前後も知らない人に囲まれてこそ集中できる。友人を誘ったことはほとんどないのだ。