星野源をうならせた、アドリブへの反応の早さ
そんなふうに自然に役に入れるがゆえに、『逃げ恥』でカップルを演じた星野と距離を縮めることもできたのだろうか。放送時に2人で応じたインタビューにも、いま読むと、結婚への伏線ではないかと深読みしたくなる発言がたびたび出てくる。
たとえば、あるインタビューでは2人の息がぴったり合った場面として、『逃げ恥』第5話の最後で、新垣演じるみくりと星野演じる平匡が一緒に瓦そばをつくるシーンが例にあがる。このとき、そばをお湯からザルに上げた平匡の眼鏡が曇った。星野いわく《あれは台本にあったわけではなくて『曇れ!』と思ったらちょうど曇って(笑)。うれしくてアドリブで『前が見えません』と言ったら、みくりさんがサッと自然に眼鏡を拭いてくれたんですよ。新垣さんの反応の早さたるや、本当にすごくて》(※5)。彼女が眼鏡を拭くところはオンエアではカットされたものの、その後、「ムズキュン特別編」と題してウェブで配信されたディレクターズカット版にはしっかり収められている。
2人で共有していた、「丁寧な暮らし」への思い
今年正月の『逃げ恥』のスペシャルドラマの放送を前にした2人の対談では、最近は何を楽しみに生活しているかという話題になり、休みの日に自分でコーヒーを淹れて飲むのが幸せだという星野に対し、新垣は《それこそ食後にコーヒーをいれるとか、丁寧に暮らしている人たちの生活をSNSや本で見て、そういう生活をしている自分を妄想するのが楽しいです》と語っていた(※6)。すでにこのときには、彼女は生活面でも星野に引かれるものを感じていたのかもしれない。
『逃げ恥』はラブコメディの形をとりながらも、社会の生きにくさみたいなもののなかで、懸命に生きる人たちが丁寧に描かれていた。今年のスペシャルドラマでも、新型コロナウイルスの感染が拡大する最中にみくりが実家のある千葉・館山で出産し、東京にいる平匡とは感染を避けるため離れ離れのまま子育てを始めねばならないという状況から、夫婦が互いに葛藤するさまが描かれた。新垣と星野は撮影にあたり、2人が目の前のシリアスなハードルをどう面白く乗り越えていくか、監督も含めみんなで考えながら演じたという。