「国家公務員の守秘義務違反に当たる恐れがある」
アクティビストを黙らせるため、東芝と経産省は一線を超える行為にも及んでいる。情報の横流しだ。
東芝経営陣と結託していたのは、東芝を監督する立場にある情報産業課(情報課)。一方、改正外為法の審査を担当するのは安全保障貿易審査課(審査課)である。東芝と経産省がアクティビスト対策を始めた2020年5月から7月にかけて、情報課の課長は東芝に「いま、審査課がこんな検討をしている」「審査課がエフィッシモの調査を始めるのは何日」といった情報を流していた。この情報をもとに、東芝は審査課に働きかけるタイミングをはかっていたというのだ。調査を担当した弁護士は「国家公務員の守秘義務違反に当たる恐れがある」とまで踏み込んだ。
120ページに及ぶ調査報告書から見えてくるのは、アクティビストを「ならず者」としか見ていない東芝経営陣と経産省、官邸の時代遅れな価値観である。世界中から資金を集め、世界中でビジネスをするグローバル企業は、アクティビストを含めすべての投資家に対する説明責任を果たさなければ経営が成り立たない。資本主義国家において「金を出しても口は出すな」は通用しない。こんなことを続けていたら、日本は世界中の投資家から見放されてしまうだろう。
報告書からは経産省や官邸の本音が垣間見える
報告書の調査対象は2020年7月の株主総会に限られるが、車谷氏と経産省はその後、車谷氏がかつて在籍していた英投資ファンド、CVCキャピタルパートナーズに東芝を買収させ、東芝を非上場化してアクティビストを追い出す、という暴挙を企てるに至る。
アクティビストによって首を切られそうになった車谷氏による狂言に近かったが、経産省と官邸はこの暴挙すら後押ししようとしていた痕跡がある。
「原発と防衛産業(ミサイルシステム)を持つ東芝を、ならず者の外資の言いなりにさせてなるものか」
報告書が赤裸々に綴る文章の中からは、経産省や官邸の本音が垣間見える。それならば、原発と防衛産業をさっさと国有化してしまえば良いのだが、今の政府と東芝の経営陣にそんな大胆な決断を求めるのは無理だろう。一つだけわかっているのは、上場企業と国策企業のダブルスタンダードはもはや通用しない、という厳然たる事実である。