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経営に口出ししてくるアクティビストは「招かれざる客」だった

 東芝のガバナンスをめぐって何が起きているのか。ここまでの流れをおさらいしておこう。

 海外原発事業の失敗などで巨額赤字を計上した東芝は、自動的に上場廃止となる2年連続の債務超過を回避するため、2017年に6000億円の第三者割当増資を実施した。このとき出資して東芝の大株主になったのが、アクティビスト(物言う株主)と呼ばれるエフィッシモや3Dである。

 彼らアクティビストは、短期で企業価値が上がる事業売却などを会社に要求し、株価が跳ね上がったところで株を売却して利益を得るのが常套手段だ。経営に口出ししてくるアクティビストは事業売却などを嫌う日本企業にとって「招かれざる客」だが、このときの東芝は背に腹は替えられない状況だった。

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 案の定、エフィッシモや3Dは去年の株主総会に向け「自分たちが推薦する取締役を選任しろ」「経営計画を策定し直せ」と口出しを始めた。すると東芝は経産省と結託して、アクティビスト対策を打ち始めたのだ。困ったときに「出資してください」とお願いしておいて、喉元を過ぎたら「余計な口出しはするな」だから、グローバルにはまったく通用しない理屈である。

今年4月に辞任した東芝の車谷暢昭前社長 ©AFLO

菅官房長官から「強引にやれば外為で捕まえられるんだろ?」

 株主の利益を守るのは上場企業の経営者の責務であり、日本の政府が定めた「コーポレートガバナンス・コード」にもそう記されている。しかし今回の報告書は、去年の株主総会を控えた東芝が、株主の権利である株主提案権の行使を妨げるべく暗躍したことを暴露した。報告書はその企みに車谷前社長が加担しており、当時官房長官だった菅義偉首相がその後ろ盾になっていたと示唆している。

 報告書でもっとも衝撃的なのは61ページにある注釈だ。

(2020年)7月27日朝に車谷氏の部下である加茂(筆者注:正治・戦略委員会室バイスプレジデント)氏が、菅官房長官との朝食会に出席し、持参した資料に基づき菅官房長官に説明し、菅官房長官から「強引にやれば(:エフィッシモなどのアクティビストを)外為(:改正外国為替法)で捕まえられるんだろ?」などとコメントされていた

 6月10日、この件について質問された菅首相は「まったく承知していない」と否定した。

 しかし、報告書をまとめた弁護士の一人は、「(フォレンジックした社内メールの中には)首相官邸を意味すると思われる『丘の上』などの言葉が頻繁に登場し、東芝が経産省だけでなく官邸とも緊密に連携していたと推認される」と指摘した。