飲食チェーンのキャッチコピーは、コンパクトかつ印象に残るフレーズでそれぞれの目指すものや立ち位置がまとまっており、眺めてみると面白い。中でも有名なものの一つといえば「うまい、やすい、はやい」だろう。言わずと知れた、牛丼チェーン・吉野家が掲げているキャッチコピーである。

キャッチコピーから、吉野家の変化を考える ©文春オンライン編集部

もともとは「はやい、うまい」だけだった

 このキャッチコピー、実は過去に数回順番が変わっている。もともとは1958年に掲げた「はやい、うまい」が発端とされる。当時はまだ牛肉が今よりも高級品だったことから、当初「やすい」は入っていなかったのだ。

 そこに1968年から「やすい」が加わって「はやい、うまい、やすい」に。さらに1994年に「うまい、はやい、やすい」へと順番が入れ替わり、牛丼の価格を大幅に値下げした2001年から現在のキャッチコピー「うまい、やすい、はやい」となった。

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 かつて吉野家といえば、席に着いて、ものの数分で牛丼が出てくるのが当たり前だった。注文が入ってからのオペレーションは、大まかにはあらかじめ煮込んでいた牛丼の具をご飯にかけるのみだからだ。

 吉野家はもともと、魚河岸で働く忙しい人々のために提供していた食事がルーツにあり、だからこそ当初のキャッチコピーの先頭に「はやい」という言葉が配置されたのだろう。時代が下っても、仕事合間のサラリーマンが急いで牛丼をかき込む店として人気を博した。

 この、吉野家のアイデンティティともいえる「はやい」が末尾へと押しやられ、そう遠くない未来にキャッチコピーから消えてしまうのではないか、と筆者は考えている。