「700円の壁」を突破し、1500円超メニューも……
ここまで吉野家における「はやい」の後退を見てきたが、実は「やすい」も徐々に存在感を失いつつある。普段吉野家を利用する人にとっては、こちらの方を実感している人が多いかもしれない。
直近では、4月10日の午後2時から牛丼の大盛を696円(店内飲食)から740円(同)に上げた。牛丼の小盛と並盛は価格を維持するものの、安さやデフレの象徴とされてきた牛丼で「700円の壁」を突破したことは話題を呼んだ。この他、から揚げ丼や牛カルビ丼の並盛でも値上げしている。
もちろん、値上げは吉野家だけで起こっていることではない。牛丼チェーン、ひいては外食業界全体でさまざまな品目の原材料費、人件費の上昇が起こるなか、仕方ない側面が大きい。特に価格高騰が止まらないコメ、トランプ関税の影響を受けやすい牛肉を使う牛丼の値上げは仕方ない。
ただ、こうした「不可抗力による値上げ」だけでなく、積極的に高付加価値な商品を拡充しているのも、近年の吉野家の特徴だ。
例えば、2024年に話題を呼んだダチョウ肉を用いた「オーストリッチ丼」は1683円(店内飲食のみ)。限定メニューかつ珍しいダチョウ肉を用いた実験的なメニューだったこともあるが「牛丼店」のイメージから大きく外れた価格帯であることは間違いない。
あるいは、先ほど紹介したC&C店舗で提供している「牛丼ON野菜」。牛丼とともにしっかり野菜を食べられる付加価値が売りで、並盛707円(店内飲食)である。牛丼としてみれば若干高めといえる。
――ここまで書いていて、ふと吉野家の公式ホームページを見てみると、「こだわり」ページで「やすい」「はやい」への言及がほとんどないことに気付いた。食材のこだわりや製法といった「うまい」を強調する構成になっているのだ。
