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「殺すほうが大事です。そっちのほうが、興奮するから」殺人に快楽を覚える“反社会性パーソナリティ障害”

2021/06/18
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「発達障害」は誤診の可能性

 岡庭容疑者は、2013年3月、保護処分相当とされた上、関東医療少年院に収容されました。少年院ではなく医療少年院だったのは、精神鑑定で広汎性発達障害の診断を受けたからです。

筆者の岩波明氏 ©️文藝春秋 

 広汎性発達障害は、現在、自閉症スペクトラム障害(ASD)と呼ばれています。ASDの症状として見られるのは、「コミュニケーション、対人関係の持続的な欠陥」と「限定され反復的な行動、興味、活動」です。ちなみにASDと、先に触れたADHDを主な疾患として包括しているカテゴリーが、発達障害です。誤解している人が多いのですが、発達障害と呼ばれる単一の病気があるわけではありません。

 もっとも、私は岡庭容疑者に対するこの診断に疑問を持っています。報道によると、小学校の同級生たちは彼を「普通の子だった」と口を揃え、他の子と鬼ごっこをしたり、テレビゲームをしたりして遊んでいたとのことです(前出「文春」)。ASDやADHDは生まれつきのものであるため、もしASDであれば、小学校か就学以前から、対人関係の持続的な欠陥や、特別なものへのこだわりといった特徴が現れていたはずです。

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 誤って発達障害と診断された例は過去にもあります。たとえば愛知県豊川市主婦殺人事件(2000年5月)では、犯人である当時17歳の少年が、精神鑑定でアスペルガー症候群と診断され、家庭裁判所に認定されました。アスペルガー症候群は、ASDの一部です。

 事件の概要を簡単に説明します。この少年は中学生の頃から人を殺してみたいという思いを抱いていたようです。そして高校生になったある日、殺人の実行を決意。「自分の感情が通じる以外の人で、若者よりは年金問題で社会のお荷物になっている老人がいい」と考え、近所の家に侵入し、64歳の主婦を見つけます。持参した金槌を頭に振り下ろした上、台所の包丁で、被害者をめった刺しにして殺害。逃走したものの、「寒くなって疲れた」と名古屋駅前の交番に一人で出頭し、逮捕されました。

 彼の場合、対人関係の障害は高校時代まで一貫して見られず、限定的、反復的な行動パターンというアスペルガー症候群の診断に必須の項目も確認されていません。それにもかかわらず、裁判所は結局、少年がアスペルガー症候群であるとの診断を受け入れたわけです。

 実はこの事件では精神鑑定が2回行われ、アスペルガー症候群という診断が下されたのは、弁護側の求めに応じて行われた2回目の精神鑑定です。私は、それよりも精神科医の故・小田晋氏が1回目の精神鑑定で下した、「人格障害(パーソナリティ障害)」という診断を支持します。