IOCからは「2年延期」の案もあったのに……
本来、官邸主導型の政治は、首相への国民の支持が原動力である。菅も世論に敏感な政治家であり、GoToトラベルに固執していた昨年12月、内閣支持率が42%まで急落する世論調査結果が明るみに出た日に一転、一時停止を決断している。
ところが今回、ことここに至るまで菅は「読み上げ答弁」を続けている。
ワクチン調達・接種をめぐる初動の遅れや医療体制整備の失敗など、菅官邸のコロナ対策はその綻びをあらわにした。菅首相だけでなく前任の安倍晋三首相も同じだ。IOC(国際オリンピック委員会)から「2年」の案があった五輪延期をわざわざ「1年」と決めていまの苦境を招いたのは、在任期間中の開催を望んだ安倍の判断による。
失策に向き合わず、反転攻勢を狙って失策を重ねる。コロナが浮き彫りにしたのは支持率獲得にたよる官邸主導政治の弊害だ。挽回に必死になるばかりに、肝心の国民の声に対してさえ耳をふさぐ本末転倒に陥っている。
尾身会長の提言は無視されている?
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は「今の状況でやるのは普通ない」と述べ、感染分析のアドバイザーである分科会委員、押谷仁・東北大学大学院教授も英紙のインタビューに「誰もがリスクがあることを知っている」(タイム紙・6月8日付)と懸念を表明している。
それにもかかわらず、菅政権側の牽制により、尾身ら分科会はリスク評価を提言できずにいた。
菅政権は「開催判断の前にリスク評価を」という尾身会長の提言を無視し、すでに開催の決断を下しているようにも映る。
IOC、組織委員会、東京都と国が参加する調整委員会の最終協議が行われた5月21日、菅は官邸で小池百合子都知事と会談。「宣言下での開催もありうるか」を問われたジョン・コーツIOC副会長が「答えはイエス」と述べて顰蹙を買ったのは、その夜だ。