五輪と政治をめぐる世論調査に、興味深い変化が起きている。
読売新聞(6月7日付、4~6日実施)の世論調査で注目を集めたのは、今夏の東京五輪について「開催する」と答えた人が、「観客数を制限して」と「観客を入れずに」を合わせて50%にものぼったことだ。「中止する」の48%と、ほぼ拮抗した。前回調査(5月7~9日実施)で39%に止まっていた「開催する」は増え、59%だった「中止する」は減った。
ワクチン接種は加速した。あとは五輪が近づけば世論の期待は集まる――そんな皮算用をしていたのは、ほかでもない菅義偉首相自身だったに違いない。
ところが皮肉なことに、同じ調査で菅内閣の政権支持率は6ポイントもマイナスの37%に落ち込んだ。政権発足当初の半分にまで減らしたことになる。
「安心な大会を実現する」と言うだけ
そもそも「五輪への懸念」が急拡大したのは4月半ば、大阪・兵庫で新型コロナによる医療逼迫が深刻化した頃だ。不安をかきたてたのは、例えば、流行地域の国の選手からワクチン接種が進んでいない地域の選手へと感染するリスク。開幕の盛り上がりで街に人の流れが生じ、大阪のような感染爆発が東京で再現されるリスク。そして一般医療、コロナ対応、さらに五輪への対応を迫られ医療が逼迫するリスクなどである。
懸念が国民の間に広がり、朝日新聞が5月中旬に行った世論調査で「中止」「再延期」の合計が83%、5月下旬の日経新聞の調査でも同じく合計が62%に上った。
3度目の緊急事態宣言の発出に追い込まれた菅首相は、記者団から「緊急事態宣言下でも五輪を開催できると考えるか」と問われたが、「当面は宣言の解除を」と言うのみで、都合の悪いシナリオには言及しなかった。
かつて郵政民営化を掲げて「殺されてもやる」と唱えた小泉純一郎首相は、大雑把だが直感的に国民の期待や不安に答えるセンスが備わっていた。対する菅は、国家の危機だというのに、役所が用意した「安心な大会を実現する」という抽象論を読み上げるばかりだ。