1ページ目から読む
2/4ページ目

パチンコがやめられない

 わたしだって、どこかでパチンコをやめたかった。やめたかったというか、こういうパチンコとの付き合い方を、やめたかった。

 ある日、なぜこんなにパチンコがやめられないのだろうか調べてみようとパチンコを休んで図書館に行ってみた。手にした本には興味深いことが書いてあった。

「リーチがかかると脳内麻薬みたいなものが発生する」

ADVERTISEMENT

 ああ、これはわかる気がする。ずっと当たり続けているときより、リーチがきたときの興奮を次も感じたい、と思うから。なるほど、これがパチンコをやめられない理由か、ふむふむ、と思ったが、次の瞬間、「だからなんなの?」となり、その足でパチンコ屋に向かった。

エッセイ全文は『母』(中央公論新社)にて掲載

 結局、やめられなかった。

 これが続くとは思わない。

 だけど、1日が、過ぎればいい、なにも失うことなく。

 寒い雪混じりの雨の日。

 その日も朝から起きてパチンコに行った。目覚ましなしで起きられるようになった。両親の離婚をきっかけに、高校の頃から学校も遅刻し、あるときからはほとんど行かなくなったわたしは、パチンコだけは時間通りに行けるように成長した。

 駅前でパチンコ用フリースに着替えて、いつものモンスターハウスの前に座った。一応台の情報をわからないなりにみて分析し、なんとなく選んで座った。その日は、つまらない日だった。5000円くらいで、単発が当たり、一箱出て、のまれて、玉が全部なくなりそうなときに、また単発が当たって、のまれて、その繰り返しを閉店間際までやっていた。

 結局、プラスマイナス0だった、だらだらと時間が過ぎた1日だった。気づくと夜の9時だった。

 もう今日はやめようかな。

 タバコの中に100円ライターをギューと押し込んで、それをパチンコ用フリースのポケットの中に入れて、パチンコ屋の自動ドアから外に出たら、

 彼がいた。たまたま、いた。

 かっこいい人がいるなと思ったら彼だった。背が高くてスタイルがよくて、わたしと同じような安いフリースをおしゃれに着こなしていた。

 中野に住んでいて、中野の駅前でパチンコしてるのだから、そりゃたまたま会っても仕方ないのだが。

 彼は、わたしをじっとみていた。

 わたしは、

「パチンコなんて行ってないもん! トイレかりただけだし!」

 と泣こうかな、と思ったけど、これは明らかにバレるな、と思ったし、もはや逆ギレが通用する雰囲気ではなかった。彼は静かにわたしをみていて、わたしは、やばいやばいどうしようかな、と思いはじめたら、可笑しくなってきて、笑いが止まらなくなった。パチンコ屋の前でわたしは笑い続けて、彼はそれを一瞥しどこかへ消えた。