でも、やっぱり彼はかっこよかった。
あーなんだか、久しぶりに笑ったなー。
これからどうなるのかわからなかったけれど、笑ったことで、しばらく笑ってなかったんだなわたし、ってことを思い出した。
彼との空気感がおかしくなり…
わたしはわたしに問うた。
どうするの? 彼に謝るのはいいけど、パチンコやめます、と言うのか? 果たしてやめられるのか? やめないならば、やめないけど許して、と言うのか。パチンコをやめてほしいと幾度も言われてきた。ウソついてごめんなさいと言うのか。この先ウソをつかないと約束できるのか。それともウソにウソを重ねて付き合っていくのか。いけるのか。いきたいのか。
わたしは自分自身に答えが出せないまま、だけど、いまのところなにも失いたくないことだけは確かなので、現状維持を期待して家に帰った。外から確かめると、部屋は真っ暗だった。雪っぽい雨はやんでいて、冷静になってみると、ひどく寒かった。冬らしい張り詰めた空気で、空を見上げると、星が綺麗に出ていた。息は真っ白で、手はかじかんでいて、少し気持ち悪かった。1日なにも食べていないことに気づいて、空腹感ゆえの気持ち悪さだな、と思った。パチンコ用フリースは、着替えずに帰ってきた。澄んだ冬の風で、心なしかタバコの匂いが消えた気がした。階段に少し積もった雪は氷に変わりつつあり、わたしは気をつけて2階にあがった。玄関の前に立ち、たぶんいないけど、どうか彼がいませんように、と願った。そして信じられないほど音を立てずに鍵をさしてドアを開けた。うなぎの寝床は、一番奥まで見渡せて、絶対に誰もいないことがわかった。
上京したときは、うなぎの寝床だろうがワンルームだろうが、よかった。むしろ狭い方がいつも一緒にいられるじゃん、と喜んだ。こうなると、うなぎの寝床でなく、個室が1つでもあれば、と後悔した。おしゃれにみえた無印良品のオフホワイトたちが、くすみがとれない白にみえた。あんなに落ち着けた我が家なのに、心が圧迫されているように感じた。
たぶん、これが現実で、真正面からみるのが嫌だったから、好きなパチンコに逃げた。
でも、みつかった。
彼は深夜に帰ってきたが、わたしは寝たふりをし、朝はわたしが早く出かけて、お互い、その問題にふれることはなかった。
あれは夢だったのか?
夢だったのかもしれない。
だが、明らかに彼との空気感がおかしくなり、やっぱり夢じゃなかったのかー、と思い知らされたが、どうしたいのかの答えも出てないわけだから、どう謝っていいのかもわからなかった。そのまま時が過ぎていった。
「ごはん、食べる?」
「いらない」