なんとなく、ことばを交わしたりする時間もでてきて、抜本的解決ではないとわかりつつ、なかったことにしよう、と解決から逃げた。
しばらく休んでいたパチンコにも行くようになった。考えてみたら、他に行くところがないわけで、家にいても息が詰まる。もう、パチンコ用フリースをロッカーに入れずに、家から着ていった。彼は日課のようになっていた、「どこにいくの?」はもう言わなかった。わたしも、「いってきます」と言わずに家を出た。
「久しぶりだな?」
ジンさんが話しかけてきた。
いつもみたいに明るくて楽しいはずのジンさんのパチンコ話は、いまのわたしの気分をあげてくれるには足りなくなっていた。ジンさんは話し続けていたけれど、わたしは聞き流しながら、適当に相槌を打ち続けた。
彼はわたしの毎日から消えた
ある日、家に帰ると様子がいつもと違ってみえた。とても片付いているように、みえた。
「なんだろう?」と、いつもの場所に座って、テレビをつけようとリモコンを探すが見つからない。「どこにおいたかな?」とテレビの方をみて、驚いた。テレビがなかった。
「え」
ゆっくりと部屋の中を見渡すと、電化製品や、彼のパソコンが、なかった。
「え」
襖を開けると、突っ張り棒にかかっていた洋服は、わたしのものしかなかった。
わたしは混乱した。
だけどすぐにわかった。
彼は出ていったのだ。
心臓がバクバクしはじめて、
いやだ!
と思った。
彼に電話をする。考えてみたら、とても久しぶりに。彼はすぐに出た。
「もしもし」
「どこ?」
「ごめん、別れたい」
「別れない」
「ごめん」
「どこ?」
「言わない、探さないで、ごめん」
「1回帰ってきて」
「ごめん、帰れない」
「じゃあどこかで話そう」
「もう、話すことない」
「どこにいるの?」
「ごめん、探さないで」
「探す! 探すから!」
「さやかは面白いから」
「はい?」
「ずっとファンだから」
「そんなことどうだっていい!」
「ずっとファンだから」
「ファンなら帰ってきてよ」
「それはむり」
わたしは、これでもか、というほど食い下がってみたけれど、彼は帰ってこなかった。
ひとりぼっちになるとまた心臓がバクバクしたけれど、きっとどこかでわかっていた、こうなると。どこかで、それを希望していたような気すらする。もう2人はきっと破綻していた、破綻していく方に、向かっていた。
でも現実のものになると、とてもとても怖かった。
大ちゃんに付き合ってもらって、カラオケに行って、泣きながら山崎まさよしのワンモアタイムワンモアチャンスをひたすら歌った。
いつでも捜しているよ、と歌いながら、わたしは一度も彼を探さなかった。
しばらくかけ続けていた彼への電話を、あるときやめた。
気づくと春になっていた。
彼はわたしの毎日から消えた。