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ソフトバンク・重田倫明投手は“育成魂”で花開くか 先輩・千賀滉大投手から学んだこと

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/07/12
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コーチも重田の今後の伸び代に期待

 今年も半分が過ぎた。特例により、今年の支配下登録期限は1か月延長され、8月31日までとなった。しかし、重田投手は「目の前の1勝しか考えていません」という。一喜一憂せず、とにかく目の前の戦いに挑んでいる。

 正直、今季の2軍戦登板5試合で未勝利、3軍でも3勝にとどまっているのには寂しさもある。ただ7月9日、久しぶりに2軍戦のマウンドに上がった重田投手の姿からは溢れる強き想いを感じた。結果としては3回5安打2失点と悔しさの残る登板だったが、初回から真っすぐは140キロ台後半をマークし続け、「人生初」という150キロの大台も叩き出した。昨季と比べたら4キロほど球速も上がっている。

「やってきたことを全て出そうという思いと、今までの悪い印象を払拭してやろうという思いでした」

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 課題は出たかもしれないが、こちらとしては今まで見た重田投手の登板の中で、何だか一番ワクワクした。冒頭の「今までの自分を捨てるくらいの気持ち」で変わろうとしていることがヒシヒシと伝わってきた。

 倉野信次ファーム投手統括コーチに試合後話を聞くと、重田投手の昨季からの大きな成長を感じていた。打者に向かっていく姿勢や球速など目に見える進化もありながら、「取り組みも非常に良い。向上心や学ぶ姿勢、上手くなりたい気持ちが出ている」と今後の伸び代にも期待を寄せていた。

 一方、倉野コーチが重田投手に常々言っているのは「自分の武器を見つけなさい」。平均的な投球スタイルではなく、“重田といえば〇〇”という代名詞になるようなものを築き上げることが大切だという。特に育成選手は“一芸”を評価されて入団し、そこから生きる道を見出していく。たしかに、千賀投手のお化けフォーク、甲斐キャノン、周東選手の俊足……といった一芸が代名詞になった選手たちは育成から侍ジャパンへと飛び立っていった。

 倉野コーチは、先日阪神タイガースにトレードで移籍した二保旭投手の投球スタイルが、重田投手の手本になるという。二保投手もまた、育成出身だ。苦しみながらも自らの生きる道を確立し、新天地でチャンスをもらった。重田投手はそんな先輩たちの軌跡を見つめ、一歩ずつ自分の歩む道へと進んでいる。

今でもふと思い出す入団会見での姿

 時は遡り、2018年12月。重田投手の代の入団会見の取材に行った時のこと。今でも印象に残っていることがある。

 例年のことではあるが、入団会見、その後の各局の取材、新聞記者の囲み取材などは支配下選手と育成選手の差をまざまざと突き付けられる時間でもある。

 支配下選手にのみ向けられる質問、テレビのインタビューは支配下選手だけ……。育成選手だけが端っこに取り残されて、手持ち無沙汰になってしまう時間がある。その時間に、私を含め2、3名の記者が育成選手に取材をしていたのだが、重田投手はこんな言葉を発した。

「こういう時にも見てくれる方々を大切にしたいです」

 自身の置かれた立場を理解しているからこそ、悔しさを噛み締めているからこそ出てきた言葉だと感じた。まだ右も左もわからない時なのに、取材をした記者に感謝の言葉を述べたのだった。その時の姿は、今でもふと思い出す。

 その入団会見で重田投手が掲げた目標は――。

「魅力ある信頼される選手」

 その取り組む姿勢や健気さに既に私も魅力を感じている一人。何より、千賀投手ら先輩たちが何とかしてあげたくなるほどの熱き“育成魂”は重田投手の立派な魅力。重田投手になら、乗り越えられない壁などないはずだ。

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