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タマスタで若鷹を追い続けて9年、ある制作スタッフのお仕事

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/07/06

 若鷹たちが一軍を目指して奮闘する、ホークスのファーム本拠地タマスタ筑後には彼らを冷静かつ熱い想いで追いかけ続ける研究者のような女性がいます。

 若鷹応援番組に携わる制作スタッフのひとり、吉村(よしむら)さんです。

取材日の吉村さん。このキャノン砲のようなカメラを担いで、タマスタやキャンプ地を移動しています。 ©川崎優

「ファインダーを通して観ると必ず発見がある」

 二軍戦の振り返りや、選手のインタビュー特集など若鷹の情報満載。「J:COM」制作で福岡・北九州・熊本・下関の同局ほかにホークス一、二軍主催試合を放送中の「スポーツライブ+」でもオンエアされている「ガンガン!ホークス CHECK!GO!」。この番組でカメラマン兼ディレクターをつとめるのが吉村さん。他に、音声・カメラアシスタント・制作進行などを行う寺井(てらい)さん。そこにリポーターとして、文春野球でもお馴染みの上杉あずさ(うえすぎ あずさ)さん、そして私、川崎優が出演者として加わり、少数精鋭のたった4人で制作されている番組なのです。かつ、野球の番組としてはおそらく珍しい、全員女性というスタイルです。

 番組立ち上げの2013年から約9年間、カメラで若鷹たちを追い続けているのが、このチームの中心人物である吉村さん。インタビューする選手と、その質問内容やおおまかなテーマを決め、カメラマンとして練習から試合、そしてインタビューの映像を撮るだけでなく、ペン取材、編集までこなします。

 野球で例えるなら、作戦を決めるヘッドコーチでありながら、自らグラウンドに立って働きまくるユーティリティプレーヤー! リアル何刀流? 凄すぎませんか?! 

 タマスタ民(タマスタに通うファン)にはお馴染みですが、メイン球場は人工芝ということもあり真夏は気温計の針が50度を振り切るほどの炎天下になります。その中で黙々と練習中の選手達の動きや表情を追いかけ、その後インタビューを撮影し、試合中も選手のプレーをレンズで狙いながら、試合後はペン取材に勤しむ。あのスレンダーで華奢な体型のどこにそんなエネルギーがあるのか。その姿はまさに研究者のよう――。

「ファインダーを通して観ると必ず発見がある」

 それが彼女の口癖です。

 プレー中やプレー後の表情を観察し、どう感じているのだろうと考えを巡らせる。

「あの投球の時マウンドでこういう表情をしていた……」、「あの練習中こういう動きをしていたから○○だったのでは」という話は面白く(しかもとても細かい)、それがインタビューの内容にいかされることもあります。

 元々は、制作会社でカメラマンとして、旅番組や情報番組に携わっていた吉村さん。その後フリーランスとなりましたが、子育てとこの業界での仕事の両立は難しいと感じ子育てに専念することに。その当時は日々TVでホークス戦を観戦し、マッチこと松田宣浩選手のプレーに元気を貰っていたと言います。

 そんな中、番組立ち上げの際に声がかかり、「まさか」の野球の世界へ飛び込むことになりました。業界へ戻る気持ちは無かった……と振り返りますが、今となっては若鷹の試合スケジュールが生活の中心となっています。ホーム戦は勿論、ビジターの試合もネット配信で追いかけ、必要とあらばロケ日以外の練習日にもタマスタ筑後に足を運び、取材をし、カメラを回しています。(現在の取材は、感染症の影響で制限されています)

スタッフ全員が共通して大切にしていること

 そんな吉村さんの熱意とともにこの番組に携わって感じるのが……全員の取材への熱量の大きさ。

 選手の状態が良い時も、そうで無い時も「取材を積み重ねること」。

 これは、吉村さんを始めスタッフ全員が共通して大切にしていることであり、その時得た選手の言葉は何物にも代えがたい宝物です。限られた取材時間の中で、選手の思いを聞き、間違いのないようファンのみなさんにしっかりと届ける。「なるべくこちら側の解釈や考えを入れず、選手の現状のありのままを伝える」ためにも、監督やコーチ陣にも必ず取材をします。

 そんな取材の積み重ねの成果は、某日行ったプロ10年目、ミスタースリーベースこと釜元豪選手のインタビューでも垣間見えました。

インタビュー風景。後ろから撮ろうとしたら、釜元選手がこっちを向いてくださった。 ©川崎優

 2年前のシーズンではプロ8年目にして初の開幕1軍を掴み、自己最多の86試合に出場し初安打や初ホームランを記録。初のお立ち台も経験しましたが、今季は二軍スタートとなり、「今年がプロ入り後一番苦しんでいる」という釜元選手。

 当日担当だったインタビュアーの上杉さんも、何を、どんな風に聞いていこうかとかなり思案していた様子でした。しかし、いざ取材が始まってみると釜元選手は素直に今の自分の思いをカメラに話してくれました。

 以前ファーム本拠地のあった雁の巣球場時代から、取材を続けている釜元選手。その時の吉村さんのペン取材も元にしつつ、和やかにインタビューは進みました。

 番組と、インタビュアーの上杉さんが築いてきた信頼関係はもちろん、私が以前、どうインタビューし向き合っていこうかと悩んでいた時期に吉村さんがかけてくださった、「選手に寄り添うように」というその言葉も思い出した光景でした。