動物取扱業者による虐待飼育などの社会問題を背景に、2012年9月に動物愛護法が改正された。しかし、法改正の内容は動物取扱業者への規制強化という観点からはきわめて不十分なものだった(このため2019年6月、動物愛護法は4度目の改正が行われた)。その証拠に、現在も全国で数多くの見過ごせない虐待が起こっている。

 ここでは、朝日新聞記者の太田匡彦氏が動物虐待の実態に迫った著書『奴隷になった犬、そして猫』(朝日新聞出版)の一部を抜粋。売れ残った動物を回収する「引き取り屋」の実態を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

※本稿にはショッキングな写真がございます。ご注意下さい。また、登場する人物の所属先や肩書、年齢、団体・組織名称、調査結果のデータなどはいずれも原則として取材当時のものです

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想定外の闇ビジネス

 第1種動物取扱業者への規制強化が不十分なものとなったために、犬たちを巡る「闇」はさらに深さを増す。

 栃木県内の大量遺棄事件で逮捕された、ペットショップ関係者の男。この男は実は、犬猫の「引き取り屋」という、一般には聞き慣れないビジネスを営んでいた。事件は死んだ犬たちの大量遺棄として発覚したが、問題の根は、男が営む引き取り屋というビジネスにあった。男は、愛知県内の繁殖・販売業者から100万円を受け取って犬80匹を引き取っていた。それらの犬を運搬中、結果として多くを死なせてしまったのだ。

 2013年秋から繁殖業者やペットショップによるとみられる犬の大量遺棄事件が顕在化した。埼玉県の橋谷田元・県生活衛生課主幹は言う。

「栃木県で起きた大量遺棄事件の犯人が逮捕されて初めて『引き取り屋』という業態があることを知った。動物愛護法第35条の改正で、業者は犬の引き取り先を探すのに苦労しており、闇でこういう商売が出てきているのだろう」

「闇」となるのには理由がある。引き取った犬猫を一部でも販売していれば第1種動物取扱業(販売)の登録が必要だし、ペットホテルやペットシッターのように犬猫の保管を目的としたビジネスを営むなら第1種動物取扱業(保管)の登録を求められる。だが、栃木県で大量遺棄事件を起こし、逮捕された男のように単に引き取るだけなら法の網の目をかいくぐれる。そもそも、「引き取り屋」というビジネスを、動物愛護法は想定していなかった。こうしたことから、行政の監視、指導の手は届きにくくなる。

「(栃木県で大量遺棄事件を起こした男が)犬の引き取り屋をしていたことを把握していなかった」(栃木県動物愛護指導センター)

「そういう業者がいるかもしれないと懸念しているが、把握できていない」(群馬県動物愛護センター)

「潜在的にいくつもあるのかもしれないが、行政としては把握するすべがない。次の法改正の大きな課題になる」(埼玉県生活衛生課)

 犬猫たちの前に、大きな闇が広がっていた。