ドイツ人が彼を「ぼったくり男爵」と呼ばない理由
オリンピックが近づくにつれ、バッハ会長をはじめとしたIOC関係者や各競技団体幹部が大会期間中、The Okura Tokyo、ザ・プリンス パークタワー東京、グランドハイアット東京など高級ホテルの全室を貸し切り、本来は一泊300万円の部屋に4万円で宿泊し、その差額は組織委が負担することになっているなど、その特権ぶりが広く報じられています。
「五輪貴族」という言葉も話題になりました。あまりに庶民感覚とかけ離れた待遇を、遠慮なく要求するIOCの様子が「まるで貴族のようだ」と言われているわけです。
五輪貴族以上に衝撃的だったのは、アメリカのワシントン・ポスト紙がバッハ会長のことを「ぼったくり男爵」と名付けたことでしょう。「男爵」という言葉は、その響きの面白さからか日本のメディアでも多く取り上げられました。
ところが、ドイツでこの件はほとんど取り上げられていません。というのも、ドイツには今も男爵の家系だと分かる苗字(男性Freiherr、女性Freifrau、男性Baron、女性Baroninなど)が残っているからです。
もしバッハ氏が男爵の家系であれば、「ぼったくり男爵」の異名はドイツでも通用したはず。ドイツ人の感覚からしたら、「なぜバッハを批判する際に『男爵』という言葉が出てくるのか」と不思議に思うわけです。
オリンピックを冷めた目で見るドイツ人たち
新型コロナウイルスの感染状況について、いまだ収束の目処が見えないことから「オリンピックなんてやっている場合ではない」という声もあり、その開催を冷めた目で見る日本人も少なくありません。
一方、ドイツ人はコロナに翻弄される前から、オリンピックを懐疑的な目で見る人も多かったことをご存知でしょうか? たとえば数年前に「2022年の冬季オリンピック候補地」としてドイツのミュンヘン市が立候補を検討していました。しかし2013年に開催にまつわる住民投票を行ったところ反対派が多数。結局、ミュンヘン市は立候補を断念しています。
「大規模なスポーツイベントが行われると環境が破壊される恐れがある」「無理な建設で財政が圧迫されるのが心配」など反対意見は様々でしたが、そもそもドイツ人は「大規模なイベントによって世界から注目されること」よりも「地元の人の居心地よさ」のほうが優先されるべきと考える傾向があります。