「これバーチャル背景画像、これ無料で、壁紙です。東京の色々なシーンがございますので、(略)ぜひご活用いただきたいと思います」

 5月21日の記者会見で小池百合子都知事が発表したのは、「ステイホームのためのバーチャル背景画像の提供」でした。

 パンダのシンシン、レインボーブリッジ、都電おもいで広場……こうした東京の名所の写真をパソコンの背景画面に使えば、テレワークも「楽しみながら」「生産性を上げていく」ことができると小池さんは語りました。

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 緊急事態宣言下で、何をいまさらテレワークの背景画像なんて……と思う人がほとんどでしょう。明らかにズレている。でも小池さんにとって、これは立派な「政策」なのです。この日の会見で、おそらくいちばん力をいれて準備した。いかにも小池さんらしい発想です。

小池百合子都知事 ©文藝春秋

 ほとんどの人は忘れていると思いますが、昨年12月11日には、「お正月用のウィズコロナ東京かるた」というのも発表しました。

「あいしてる 家族のために距離をあけ」「いい子だね おうちで学び遊びましょ」「うちにいる ただそれだけで大貢献」

 小池さんはこの時の記者会見で、「ちょっと硬めの紙などにしていただいて、(略)ぜひ皆さんで、感染防止対策を考えながら、学びながら、楽しみながら確認をしていただきたいと存じます」

 とにこやかに語ってみせました。かるたでコロナ対策ができると、本気で思っているのでしょうか。

遊びのようなコロナ対策を次々と繰り出し続けている

女帝 小池百合子』著者の石井妙子氏

 少しさかのぼりますが昨年11月19日には、わざわざ夕刻に緊急記者会見を開き、「5つの小」というキャッチフレーズを都のコロナ対策として発表しました。少(小)人数、小一時間、小声、小皿、小まめという「『5つの小』を合言葉に感染防止対策の徹底を! さらにプラスして医療従事者の皆さんへの『こころづかい』を」と呼びかけました。内容は3密と変わりありませんが、「5つの小」としたことで、彼女は新しいアイデアだと自負したのです。

 これらが発表された11月後半から12月といえば、第3波のカーブが急激に上がりはじめ、時短営業の必要性やGoToキャンペーンの一時停止を求める声が大きくなりかけていた頃でした。何より都民が気にしていたことは、東京都の医療体制だったはずです。適切な治療は受けられるのか、医療崩壊を防ぐ措置はとられているのか。ところが彼女は12月21日の記者会見で、こう言ったのです。

「現場の医療提供体制でありますが、医療従事者の皆さんの献身的な頑張りにかかっていると言っても過言ではありません。こうした皆様方に対して心からの感謝の気持ちを伝えるために、都内の小中学生の皆さんに、看護師さんをはじめとする医療従事者の方々に感謝のお手紙、ちょうどこの時期ですから年賀状をお送りするよう呼び掛けて参ります」

 まともな大人の考えることでしょうか。ましてや都知事という立場にある人が。

 この非常時に、こういったくだらない「政策」が出され、税金や都庁職員の労力が割かれていく。不思議なことに会見場にいる記者たちは羊のようにおとなしく、都知事に鋭い質問を投げようとしません。また、視聴者や読者に伝えようともしません。だから彼女は思い付きで、遊びのようなコロナ対策を次々と繰り出し続けているのです。