作中でも主人公の真瑠子が優秀なダウンを連れて別のマルチに「お引っ越し」していますが、そうすることでまとまったお金が入ってきます。たとえば500人の組織のなかで100人でも「生きている」メンバー、つまり継続的にビジネスをしているメンバーを連れて引っ越しできれば100台は売れますよね。そこでお金が1回流通しますし、組織が新しくなったことで違うマルチのメンバーが傘下を連れて合流することもある。だから、「マルチは引っ越しした時にお金になる」という感覚はありました。
それに、下手に稼いだ記憶が残っているから、「盛り返せば借金は返せる」みたいな変な自信があって、あまり慌ててはいませんでした。もっと慌てふためいてもよかったと思うんですけど……。
「自分は運がいいし、持っているから大丈夫。何とかなる」
──返済はできていたんですか。作中に、消費者金融から催促の電話がかかってきたというエピソードがありますが、あれは実話なのでしょうか。
西尾 実話です(笑)。って笑う話じゃないですよね。銀行の人から「明日くらいにお宅に伺おうと思っていました」と電話がかかってきて、震え上がったのを覚えています。口調は優しいけど、(街金ではなくて)銀行の人の方が来るんや! 怖え~! と思って。「1万円でも入れてもらえれば大丈夫です」と言われたので、わかりましたと電話を切って、速攻1万円入金しました。街金より怖いですよ、銀行! って借金の返済を滞らせた私がいちばん悪いんですけど(笑)。
笑い話ついでに言うと、今考えるとおかしい話ですが、「自分は運がいいし、持っているから大丈夫。何とかなる」みたいな変なゾーンに入っていたと思うんです、あの頃って。返済の支払いが苦しくなったときに、宝くじを窓口で20~30枚買ったんですよ、私。「自分は持っているから当たる」という変な自信があって。でも当然外れて、死ぬほど落ち込みました。「なんで当たらないの」って。バカみたいですよね。でもそのくらい感覚がおかしくなっていたんだと思います。
──頼みの宝くじも外れて、借金の清算はどうされたんですか。
西尾 もうどうにも支払いができなくなったので、仕方なく父に相談しました。「なんで100万円200万円の時に言ってこんのや!」とむちゃくちゃ怒られました。
昔、父が事業に失敗して、母がお金に苦労してきた姿を見て来たので、「ママにだけは言わんといてくれ」と父に頼み込んだんですが、翌日には母にもばらされ、「とにかく1回、ウソをつかんと、どこからいくら借りているのか、包み隠さず全部出せ」と両親から言われ、借金をすべて洗い出すところから始めました。
ざっくり、銀行系と信販系から350万円、街金から350万円借りていたので、「とりあえず金利が高い350万円分を貸したるわ」と、親から350万円を借り、「マルチには今後絶対に関わらない」「定職に就く」という約束をさせられて、翌日から家に軟禁状態にされました。両親は1円も負けてくれなかったので、全額働いて返済しました。