──銀行・信販系の350万円も返済されたんですよね。どのくらいで完済できたんですか。
西尾 昼も夜もひたすら働いて、3年くらいで完済できたと思います。父に泣きついたのが2月で、翌日から就活をして中途で化粧品会社に採用が決まり、4月から正社員で働き始めました。
昼の仕事は基本給20万円くらいでしたがボーナスもあり、あとは夜、北新地のクラブでヘルプのバイトをして稼ぎました。1日行くと2万~3万円もらえたので、ありがたかったです。
「これだけの借金返すには体も壊されへん。バイトも毎日は体壊すから、週に3日ぐらいにしとき」と母に言われ、夜のバイトは月・水・金の週3日通っていました。
昼の給料とボーナス、夜のバイト代のうち、家賃光熱費として月3万円を母に渡し、生活費として月5万円を除いた残りを全額、母に「返済」していました。
ネットワークビジネスで成功した人は、どの世界でも成功できる
──昼も夜も働くって体力的にも精神的にも大変ですね。
西尾 体力的にはネットワークビジネス時代の方が大変だったから、大したことなかったです。
ネットワークやっていた時は本当に体力の限界のなかでやっていたので、セミナー中にホワイトボードを指しながら寝てしまう、ということが何度もありました。説明途中で「西尾さん」と言われて我に返る、みたいな。商品の説明も、ビジネスの説明も、同じことを繰り返して話すだけなので、体が覚えているんですよね。だから今でもネットワークの説明できます、私(笑)。
でも精神的にはきつかったです。心血注いでやってきたのに、全部パー。それどころか借金700万円ですから。
──借金を完済したあと、お金を貯めて2年後にカナダ留学。そこからヘアメイク、スタイリストとして実績を積み上げ、2019年には『愚か者の身分』で第2回大藪春彦新人賞を受賞。作家としてのキャリアもスタートされています。
西尾 本当にいろいろやってきたので、すべて糧になっている感じです。今回も本当はヘアメイク業界の話を書こうと思っていたんですけど、担当さんにマルチ時代の話をしたら食いつきがすごくて。時間が経ちすぎているので最初は思い出すのも難しい感じでしたが、だんだん思い出しながら書きました。
──様々な場で活躍される西尾さんの生き方に励まされる読者は多いと思います。
西尾 「自分でした借金だから返せる」という変な自信はあったんですけど、でもそれが逆にネットワークビジネスにはまったいちばんの理由でもあると思います。もちろん、すべてのネットワークビジネスが悪いわけではありませんし、大成功している方もたくさんいます。
ただ、ひとつだけ言えるのは、ネットワークビジネスで成功されている人は、どの世界でも成功できる人だということです。これは間違いありません。文春オンラインを読んでいるみなさんにはもっと賢く生きてほしいと、最後に付け加えてほしいです(笑)。
(取材、構成:相澤洋美、撮影:石川啓次/文藝春秋)
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