150万円もの月収を得ていたはずが、気がついたら借金700万円のローンを抱えていたという西尾潤さん。実体験をもとに「マルチ商法」にハマった女性の“乱高下人生”をリアルに描いたサスペンス小説『マルチの子』では、いちどハマったら抜け出せない承認欲求地獄を赤裸々に描いている。なぜそんな窮地に陥ってしまうのか。西尾さんがマルチと縁を切った後の人生の立て直しについても聞いた。(全2回の2回目。前編を読む)
借金を抱えてもマルチをやめなかった理由
──マルチを辞めたのは700万円にふくれあがった借金が原因とお聞きしました。最年少ランク保持者として月収150万円もあった西尾さんが、なぜそんなに借金を抱えることになったのですか。
西尾潤さん(以下、西尾) 月収150万円といっても、ずっとその金額が保証されているわけではなく、たまたまそういうことが何回かあった、というだけです。確かに数か月間はそのくらいもらっていた時期もありましたが、その分出ていくお金も多かったんです。
ネットワークビジネスって、「いくら入ってくるか」というのは自分とダウン(自分から始まる系列)のランクに関わってくるので必死で計算するんですけど、「出ていく」支払いの方はまったく考えないんですよ。もちろん、これは、人にもよりますけど。
『マルチの子』でも書きましたが、ランクを上げるための売上げノルマがあって、自分のダウンの子から「次のステップに上がるのにあと何十万円足りない」と言われてお金を貸したこともありますし、自分やダウンの子の売上げのために、自分自身が “客”として商品を購入することもしょっちゅうでした。ダウンの子が別のマルチと兼業していて、つきあいで何十万円もする下着を買ったこともあります。だから、売上げがあがるにつれて借金がふくらんでいくケースが多いような気がします。
私の場合、最初は銀行系ローンやクレジットカードのキャッシングなどで不足分を調達していたんですが、気がついたら限度額いっぱいで借りられなくなっていて、だんだん「街金」と呼ばれている消費者金融みたいなところからも借りるようになっていきました。
ローン返済額が毎月30万~40万円になっても、稼いでいた時の記憶があるから「また稼げば大丈夫」という変な自信があって、借金総額が500万~600万円にふくれあがっても、そんなに大変なことだと思っていませんでした。
──それでもマルチを辞めなかったんですね。そもそも、そこまでいく前になぜ抜けられなかったのでしょうか。素人考えで恐縮ですが、日本の労働力人口と購入者の経済的ゆとりを考えたら、「ネットワーク」には限界があり、早晩立ち行かなくなるのはわかりきっているように思うのですが……。
西尾 それ、親にも言われました。冷静に考えれば、ネットワークビジネスはある意味「詰んだ」話に見えるかもしれません。でも、ネットワークビジネスの強いところは、「ビジネスのお引っ越し」ができるところなんです。