2021年7月7日、豊島区立トキワ荘マンガミュージアムが1周年を迎えた。トキワ荘とは、1950年代に手塚治虫、藤子不二雄(安孫子素雄、藤本弘)、石ノ森章太郎、赤塚不二夫といったレジェンドクラスの漫画家がほぼ同時期に住んでいた、“漫画の聖地”とも呼ぶべき木造2階建てアパートだ。このアパートを建物ごと再現し、さまざまな企画展示を行っているのが同ミュージアムである。
当時の様子は、藤子不二雄(A)(安孫子素雄)の著書『まんが道』や、その続編『愛…しりそめし頃に…―満賀道雄の青春』に詳しい。また、本木雅弘演じる寺田ヒロオを主人公にした映画『トキワ荘の青春』(監督:市川準、1996年公開)のデジタルリマスター版がこの2月に劇場公開されており、9月にはブルーレイ版発売が控えている。
映画劇中で登場するトキワ荘メンバーの多くは、既に鬼籍に入っている。存命なのは、藤子不二雄(A)、鈴木伸一、水野英子、そしてトキワ荘によく出入りしていた、つのだじろう。この4人だけだ。そのひとり藤子不二雄(A)に、70年近く前の記憶を掘り起こしてもらった。(全2回の2回目。前編を読む)
トキワ荘で漫画の話は一切しなかった
――(A)先生がトキワ荘に入居後、トキワ荘メンバーを中心として「新漫画党」というグループが結成されました。大志を抱く若き漫画家ばかりですから、さぞかし熱い漫画論・創作論が飛び交ったのでは。
藤子不二雄(A)(以下(A)) それがね、漫画の話なんて一切しなかったんですよ(笑)。チューダーパーティーでもいろんな話をするんですけど、そこでも漫画の話はまったく出ない。
――意外ですね。
(A) 新漫画党メンバーのつのだじろう氏が、これに不満を持ってね。彼はトキワ荘の住人じゃなくて、新宿にあった床屋さんの息子なんだけど、毎日のようにスクーターでトキワ荘に通ってきてたんです。みんなから創作の刺激を受けたいからって。