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生臭いニオイが充満する白身魚フライ加工場へ潜入

 その工場に潜入したい――。交渉の結果、近くの白身魚のフライを加工する工場へ入れてもらえることになった。

「あそこの工場は悪いヤツとつながっていて評判が悪い。しかも孫請けなのさ。日本の企業と直接契約しているわけではない。だから、日本人に見られたくない。バレたらどうなるかわからないから、絶対に日本語を話さないでくれ」

 イカ社長から重大な注意事項を言い渡され、私と通訳の林氏に緊張が走る。イカ社長の車で、5分ほど走ったところに問題の加工場はあった。中はイカ社長の加工場同様、薄暗い。

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 加工場内はハエが飛び交い、生臭いニオイが充満している。あたりに段ボール箱が散乱しており、整理しきれていなかった。

 段ボールの外側には、「開きメゴチ」や「アジフライ」、「あんこう肝」などと日本語で商品名が書かれていたのである。この加工場は、間違いなく日本向け食品を製造していた。他にも「サーモン大葉フライ」など、日本の大手水産加工会社の企業名が記載された箱も確認した。

 

 作業員たちはエプロンに作業着、手袋とマスクをしていて、イカ社長の加工場より一見清潔にしていた。ところが、ある作業員がさばいていた魚を数匹地面に落としてしまい、どうするのか見ていたら、拾ってそのまま他の魚と一緒にバットへ入れた。地面は魚をさばいた後に出る生ゴミで汚れていた。日本語で抗議するわけにもいかず、林氏と黙ってため息をつくしかなかった。

「もう、いいだろ。昼の休憩なんだ」

 その加工場の責任者は、無愛想な表情でイカ社長に言った。明らかに見学者の我々を煙たがっているようだ。聞きたいことは山ほどあったが、仕方なく我々は外へ出た。すると、従業員もぞろぞろと出てきた。おもむろにマスクや長靴を脱ぎ、日光で干しているように見えた。

 

 中国でも衛生的な加工場はもちろん存在する。まともな所だと、長靴や作業着は滅菌室で殺菌され、こうして着用したまま無造作に外へ出ることはない。この加工場では、作業員の消毒に対する意識はほとんどなかった。

 日本に戻った後、段ボールに名前が載っていた企業へ、石島の加工場と取引があるのか確認してみたが、全ての企業が「そのような企業との取引はありません」と回答した。

 では、我々が石島の加工場で見た光景は何だったのか。中国のどこで作られたのか把握できていない食品を我々の食卓へ届けている日本企業も存在する。それは紛れもない事実だ。一消費者として、食品企業の担当者には、もっと自分たちが扱う商品の管理を徹底して欲しい。

写真=徳山大樹・林真宣

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奥野 修司(著)

講談社
2017年9月13日 発売

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