大胆に改変後も、原作への敬意がにじむ3つのポイント
アクション・シークエンスだけを抜き出すと、もはや『ピーターラビット』と名乗ってはいけない作品のような気がしないでもない。しかし、原作への敬意があちらこちらに詰め込まれているのも、また確かなのだ。
冒頭のマグレガーとピーターの庭での追撃戦は、原作シリーズの第一作『ピーターラビットのおはなし』をベースにしたもの。やはりアクション色が強めにされており、ピーターを捕まえたマグレガーが「今夜はパイにするか」と下卑た笑みを浮かべた後に心臓発作を起こして死んでしまうなど、改変されている箇所はあるが、ストーリーを取りこぼしなくイントロダクションとして巧みにハメ込んでいる。
また、ヒロインの名前であるビアは、ビアトリクス・ポターのファーストネームを短縮した愛称。湖水地方ウィンダミアに居を構えて絵を描いている設定も、同地に暮らしながら絵本作家として作品を放っていたビアトリクスを意識している。
さらに、ピーターはトーマスとの戦いを激化させた果てに、ビアのアトリエと自分たちの巣を破壊してしまい、争うことの愚かさと無意味さを悟る。トーマスは、動物と自然を愛するビアに感化されて大叔父から受け継いだ家を売ることをやめる。
ピーターの気付きは児童向け書籍が原作の映画にふさわしいテーマだと思えるし、トーマスの気付きは湖水地方を開発業者から守るべく、農場や土地を購入してナショナル・トラスト(イギリスの自然保護団体)に寄付したビアトリクスの信念を反映させたものだろう。
1902年の発刊以来、『ピーターラビット』シリーズを管理してきたフレデリック・ウォーン社(1983年よりペンギンブックスの傘下)が映画化にOKを出したのも、そうした部分をおろそかにしていないからだろう。
ちなみに、1936年にウォルト・ディズニー社がビアトリクス・ポターに映画化のオファーをしている。彼女は断っているが、その理由は“自分が描いた絵の小さな欠点が目立つのが望ましくない”というものだった。