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『スーパーカブ』の“リアルすぎる表現”にみる日本アニメ35年の「リアルと嘘」

2021/06/23

 1958年に生まれ、それから半世紀以上もの長きに渡り、細かな改良を続けながら生産され続け、今なお世界中に乗り手を増やし続けている、オートバイのスタンダード「スーパーカブ」。日々の暮らしに、仕事に、欠かせない存在だという人も多い。最近、この言葉をふとした折に目にする機会が増えていないだろうか。

 その存在に脚光が当たっているのは、そのものずばり、『スーパーカブ』というタイトルのテレビアニメが現在放送され、注目を集めているからだ。

(アニメ公式HPより)supercub-anime.com

主人公は山梨に住む女子高生…どこかハードボイルドな雰囲気の原作

 物語の主人公は山梨県北杜市に住む女子高生の小熊。原作小説の記述によれば、父親は生後まもないころに他界し、母親は小熊が高校に入学した直後に失踪している。頼れる親戚もなく、現在は奨学金で慎ましやかに暮らしている、天涯孤独の高校生だ。

 原作は角川スニーカー文庫から刊行中の小説だ。元はカクヨムというKADOKAWAが運営している小説投稿サイトの投稿作品だったが、2017年に改稿の上、商業出版された。現時点でのシリーズ既刊は8巻。いわゆる「ライトノベル」のカテゴリーで刊行されている作品だが、読者の平均年齢は、レーベルの主要読者層である10代・20代よりもやや高めだといわれている。

原作の『スーパーカブ』(角川スニーカー文庫)

 実際、手にとって見ても、いわゆるライトノベルの特徴とされる饒舌な口語体や、超常的な設定、マンガ・アニメ・ゲームのパロディといった要素がなく、どこか世界を突き放したかのような乾いた文体が魅力的な作品だ。その読み応えは、どこか国産ハードボイルド小説のようですらある。アニメはそうした原作小説の枯れた持ち味を、巧みに別メディアに移し替えている。

通学にバイト、初めてエンジンをかける瞬間のとまどい…「カブのある日常」

アニメ『スーパーカブ』PV

 アニメは第1話で、薄暗い地方都市の風景の点描から、孤独な暮らしを淡々と営む小熊の姿へとカメラを切り替え、さらりと物語をスタートさせる。地方の安普請な、物の少ないアパートで目覚め、簡素な食事を黙々と食べて学校へと向かう。学校でも、取り立てて目立つことなく学生生活を過ごしている。

 そうした何気ない日常の中で、小熊はふと思い立ち、スーパーカブを入手する。劇的な出来事があったわけではなく、毎日上り坂を自転車で通学する大変さを感じていた折に、たまたま道行く原付が目に留まっただけのこと。そこから、彼女とスーパーカブとの付き合いが始まる。

 初めてエンジンをかける瞬間のとまどい。深夜のコンビニへのツーリング。ガス欠を起こし、必死でマニュアルを探し、予備燃料でトラブルを解決する。正味20分強の第1話のあいだに起こるできごとはこれだけ。