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「うわーここまで言われるんだ」ファンから猛反発を受けた『ゆるキャン△』実写化、風向きが変わったワケ

CDB

2021/06/17

 ドラマ『ゆるキャン△』『ゆるキャン△2』は、漫画原作のテレビドラマ化の中でも特筆すべき成功例にあたるだろう。原作がヒットし、アニメ化も成功を収める中でテレビドラマ化が発表された時には、懸念や反発の声も起きたと言われるが、現在では原作ファンからも多くの支持を集め、シーズン2も好評のうちに最終回を迎えようとしている。

「志摩リン」を演じる福原遥 ©AFLO

 実写ドラマ化が懸念された理由のひとつには、『ゆるキャン△』という原作の特殊さもあったかもしれない。現在12巻まで刊行の単行本の売り上げ累計600万部という数字は、メジャー少年誌の中堅作品が叩き出すような売り上げだ。だが、『ゆるキャン△』はLaid-Back Camp(「のんびりとしたキャンプ」という意味)という英題の通りに、大ヒットを牽引する強烈な「フック」を意図的に排除したオフビートな作品として描かれている。

エンタメ漫画の常識を覆すような構成だった第一話

 象徴的なのは原作の第1話「ふじさんとカップラーメン」だろう。冒頭から32ページの掲載分の半分近くを、気温5℃のシーズンオフのキャンプ場で一人の少女が淡々とテントを張り、薪を集めるキャンプ描写に費やされる。主人公である少女志摩リンのモノローグは、キャンプに必要な実用的な知識で占められ、自分が何者でなぜ一人で季節外れのキャンプをしているのか読者に説明することはない。

 後半では、富士山を見にきて疲れて眠ってしまったもう一人の少女、各務原なでしことの出会いが描かれるのだが、二人の会話は淡々と描かれ、特に二人の間に衝突や問題が起きることもなく、各務原なでしこが迎えに来た姉の車で帰っていくところで第1話が終わる。

 連載第1回のネームとして、これはエンタメ漫画の常識を覆すような構成だ。競争の激しい少年漫画誌にこのネームを持ち込めばおそらく「これじゃ“つかみ”が弱すぎる。一般の読者が入りやすいように、導入部はなでしこの視点から描きましょう」と担当編集者にアドバイスされると思う。

 キャンプなどしたこともない普通の女子高生が、日帰りのつもりのキャンプ場でうっかり夜まで寝過ごしてしまい、不思議なキャンプ常連客の少女に助けられてキャンプの世界に足を踏み入れていく。第1話の終わりは読者をひきつけるために、リンとなでしこの二人キャンプに何か問題が起きたところで終わる。それが商業漫画のネーム構成の常道だろう。

 だがあえて、『ゆるキャン△』は明確な意志を持って一人でキャンプをする志摩リンの側に視点を起き、ゆっくりと流れる「一人の時間」を描くことに初回の半分を費やす。「これはこのスピードで語られる物語なのだ」という、作品のコンセプトと文体が連載初回ではっきりと宣言されているのだ。