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騒動になった「二人乗りのシーン」

 そのせいで、放送中には若干の問題も起こった。6話に登場する小熊と礼子のバイク二人乗りのシーンが、「免許取得後1年未満の二人乗りは交通法規に違反しているのではないか」と視聴者から指摘を受けてしまったのだ。

 原作の該当シーンを読むと、小熊は違法性を認識しながらも、礼子が大切な話をしようとしていると察して、あえて礼子との友情を優先するような心の流れが描写されている。アニメでも、そもそも小熊が、真面目だが決して品行方正な学生ではないことはわかる。そのシーンの直前で、出発当日に急な発熱で参加できなくなった修学旅行に、小熊はスーパーカブのロングライドで合流するのだから。

小熊(右側)と礼子(公式HPより)

 そんな小熊であれば、交通法規のひとつやふたつを破るのは自然にも思えるが、一方で、原作ほどには周到なエクスキューズがされていないのもまた事実。その描写にひっかかった視聴者の気持ちも、責められはしない。

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世間のリアクションの差の背後にある「リアリティライン」

 もう少し、この問題を“似た境遇”の別のアニメと比較しながら掘り下げてみよう。『スーパーカブ』と同じクールに、カクヨムでの連載から角川スニーカー文庫での商業出版、そしてアニメ化という経路を辿り、女子高生が主要キャラクターとして登場する『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』という作品が放送されている。

 この作品ではタイトルどおり、物語の開始早々、主人公である会社員の男性が深夜の路上で女子高生を拾い、自宅に連れ帰り、そのままなし崩しで同居生活を始める。現実にそうした状況に置かれたら、自宅ではなく警察ないし児童相談所へ連れて行くことが望ましい状況だ。作中ではそうしたプロセスが踏まれることなく、主人公がやることは、女子高生の身元をインターネットで検索する程度だ。

 こちらも高い原作人気を誇り、また、丁寧な映像化で評判も悪くない。だが、こうした現実的に問題のある展開に対して、視聴者から大きな批判が出ることはなかった。なぜか。それはこの作品が、タイトルの時点で「この作品はあくまでも作り話」だと明らかであり、視聴者は最初から、この作品がどれだけ生活や感情の機微をしっかりと描こうとも、大人のファンタジーであると認識していたからだろう。

 一方の『スーパーカブ』は、問題の箇所に至るまで、原則、地に足のついた世界を構築してきた。であるがゆえに、些細なほころびが目立ってしまった。つまり、この二作に対する世間のリアクションの差は、アニメの「リアリティライン」……作品をどこまで現実に寄せるかの、線引きの差だったといえる。