これは未来か過去か、はたまた現在の世界のありようを写しとった光景か。
そもそも絵なのか写真なのか、またリアルな描写かフィクションなのかすらわからず、混乱してしまう。
観るほどに圧倒的な美しさとともに謎も増す、そんな展覧会が奈良県の入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催中。山内悠による個展「惑星」である。
モンゴルには4つの「顔」がある
山内悠は自然の中に身を浸し、そこで巻き起こる光景を撮影してきた写真家だ。広く知られた作品に、富士山で600日間を過ごし、地球と宇宙のあわいにある世界を写真で表現した『夜明け』がある。
このたび山内はモンゴルに5年間通い詰め、全土を旅して回った。遊牧民の暮らしぶりを写真に収め、自然と人間が調和して生きる世界を表現せんと考えたのだ。
いざ広大なモンゴルの大地に立ってほうぼうを眺めていると、思い描いていた以上に豊穣な世界が見えてきた。それで数年間にわたり撮影を続けることとなり、その成果が今展で観られるかたちとなっている。同じ内容は、同名写真集にもまとめられて刊行中だ。
展示は「楽園」「都市」「砂漠」「創世」というパートに分かれる。
「楽園」ではトナカイ、タカ、ラクダといった動物とともに暮らす、モンゴル各地に点在して自然と共生する遊牧民たちの姿が写真に収められている。色鮮やかな衣装を身にまとって草原に立つ彼ら彼女たちのたたずまいは、あまりに美しくて夢のよう。それでリアルな写真のはずなのに、つくり込まれたフィクションでありファンタジーみたいに感じられてしまうのだ。
「都市」の写真は、モンゴルの首都ウランバートルで撮影。経済発展が続くこの街には、国の人口の半数が暮らすという。先に見た遊牧民の暮らしと隣り合わせにあると思えば、世界中にあるのと同じようなこの都市の光景が、急に不思議なものと感じられてくる。
「砂漠」では、一面の砂漠の中に、何やらSFの世界に出てきそうな建造物が見え隠れする。これは中国の内モンゴル自治区でかつて造られ、すでにゴーストタウン化してしまった街のリゾートホテルなのだそう。写真は過去しか撮れないはずなのに、ここでは未来が写っているかのように錯覚させられてしまう。