さらなる裏づけを探して、公文書を漁った。
東京都で米軍・横田基地を所管する都市整備局による「環境事故に関する一切の記録」は過去10年分で1000枚を超える。大半が有機フッ素化合物とは無関係だったが、あるとき、ページをめくる手が止まった。
〈横田基地航空燃料漏出事故に係る経緯〉
1993年5月、横田基地内でJP-4というジェット燃料が68キロリットル漏れていたことが発覚し、米軍や東京都の対応を整理した文書だった。米軍が10年後、事故について最終報告書を出していたこともわかった。
そこに、地下水についての情報が含まれているのではないか。地元の福生市と立川市、さらに東京都や防衛省に照会したところ、いずれも報告書は廃棄したという。
次に、事故当時の新聞記事をデータベースで追うと、見覚えのある名前が目に留まった。かねてから米軍に関する情報収集を続け、在日米軍基地の実態を明らかにしてきたNPOが関連資料を手に入れていることがわかった。
漏出した燃料は基地の南南東へ流れた
横浜市港北区にある「ピースデポ」の事務所を訪ねると、積まれた文書のなかに「横田基地JP-4漏出事故 一次調査分析書」はあった。英文の資料を斜めに読み飛ばしながら、私はページをめくりつづけた。探していたのは、地下水を意味する「groundwater」という単語だった。
事故の報告につづき、水質調査の結果や地質についての分析などが現れ、まもなく、漏出現場らしき見取り図が出てきた。よく見ると、地下水の調査についての図面だった。
滑走路からつづく東部ランプ(取り付け道路)の誘導路わきに、ジェット燃料の漏出地点を示す×印があった。その近くに、一本の矢印が伸びている。
〈APPROXIMATE GROUNDWATER FLOW DIRECTION〉
推定される地下水の流水方向を指す矢印だった。それは、北の方角を示す「N」の矢印のほぼ反対を向いている、つまり、横田基地内の燃料漏出地点では、地下水は「南南東」の方角に流れていることになる。重要なヒントだった。
私は会社に戻ると資料室に向かい、横田基地が載っている大型の住宅地図をコピーした。
まず、横田基地の南東側に青い丸印をつける。東京都環境局や都環研が継続的に有機フッ素化合物を調べ、高濃度で検出された井戸のある場所だ。
つづいて、別途、手に入れていた基地の案内図を見ながら、住宅地図にある基地内の漏出地点に印をつけた。
そして、推定される地下水の流れを示す矢印を基地の外にまで一気に延ばす。すると、青い点の近くをかすめるように通った。その距離は、縮尺1万6000分の1の地図のうえで1.5センチほど。実際には漏出地点の下を通る水脈から井戸まで 250メートルたらずということになる。
さらに、漏出地点から井戸とは反対となる北西方向に矢印の線を延ばしていくと、こんどは基地内の消火訓練場にぶつかったのだ。