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 あらためて、整理してみよう。

 横田基地の北東角にある消火訓練場とジェット燃料が漏出した地点をつなぐ線はそのまま、推定される地下水の流れと重なり、さらにその先には、高濃度のPFOSが検出されつづける井戸があった。

 在日米軍は「2016年以降はPFOSを含む泡消火剤は訓練で使用していない」と認め、防衛省は「それ以前は使用していたと理解している」という。

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 つまり、横田基地の消火訓練場で使われた泡消火剤が土壌を通じて地下水を汚し、地中を流れて井戸にたどりついた、と考えるのが自然だろう。米空軍資料(2005)にも、横田基地の地下水の流水方向は「南南東」と記されている。

 ただ、地下水の専門家が言うように、地下水脈を直接、確かめられない以上、「近い」というだけでは断定できない。

東京・多摩地区を流れる湧水

東京都の開示資料に「横田基地モニタリング井戸」の文字

 さらに取材をつづけていくうちに、東京都が横田基地近くにある井戸で臨時検査をしていたことを突き止めた。

 聞くと、検査のきっかけは沖縄タイムスの報道だという。2018年12月、同紙の特約記者でもあるジョン・ミッチェルのスクープが1面を飾った。

〈横田でも有害物質漏出〉

 ミッチェルが入手した米軍の「漏出報告書」には、横田基地で2012年、推定800ガロン(約3000リットル)の泡消火剤の漏出が見つかり、1年以上にわたって貯蔵タンクの床の隙間などから地中に漏れていた、と記されていた。

 ところで、東京都は、1993年に横田基地で燃料流出事故が起きて以降、年1回、周辺の井戸で有害物質の調査をつづけている。環境局、水道局、そして飲用井戸を管轄する福祉保健局が計18カ所でベンゼン、1-4ジオキサン、トリクロロエチレンなどを測定する。ただし、有機フッ素化合物は含まれていない。

高濃度汚染により取水停止にするまで、東恋ケ窪浄水所(東京都国分寺市)の水源は100%地下水だった

 そこで、報道を見た福祉保健局は、独自に調べることにしたのだ。臨時調査の結果を記した内部文書を手に入れると、こう書かれていた。

〈横田基地モニタリング井戸 立川市 1340(ng/l)〉

 東京都は「横田基地モニタリング井戸」と位置づける井戸で、PFOSとPFOAの合計で1340ナノグラムを検出していたのだ。アメリカの健康勧告値の19倍、この1年後に厚労省が設ける、飲み水の水質管理についての暫定目標値と比べると、じつに約27倍の濃度だった。

 横田基地が汚染源であることが事実上、裏づけられた。

東京都から開示された資料のなかに「横田基地モニタリング井戸」の文字が

 米軍横田基地の広報部は「東京都の調査は横田基地の担当者がいない状況で行われたため、結果を検証することはできない」と答え、汚染源ではないかとの指摘を肯定も否定もしなかった。

 こうして、私は2020年1月6日付朝日新聞に「横田基地周辺から有害物質」という記事を書いた。2人の同僚とともに、泡消火剤に含まれる有機フッ素化合物による水質汚染が沖縄だけでなく、東京でも起きていることを初めて報じたのだった。

米軍横田基地に近い西砂第1浄水所(東京都立川市)は2000年代はじめから、休止している。1-4ジオキサンという化学物質が高濃度で検出されたためだ

 その9日後、河野太郎・防衛相とエスパー米国防相(ともに当時)はアメリカで会談し、議題のひとつとして有機フッ素化合物汚染への取り組みを確認した、とされる。

 しかし、それから1年以上すぎたいままで、東京都などが汚染源を特定したり、米軍が地下水の汚染を除去したりする動きはない。

 文中一部敬称略/写真=諸永裕司