東京・多摩地区の地下水は予想どおり汚染されていた。そして、汚染源は米軍・横田基地の消火訓練場である可能性が高い。

 航空機火災用の泡消火剤には有機フッ素化合物のPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が含まれることから、消火訓練で放出されたのではないか、と専門家も口をそろえた。

 ある米軍関係者を訪ねると、一般にも公開されているという航空写真をパソコンから打ち出してくれた。

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「これが消火訓練場です」

 そこには、灰色をした円形の広場のようなものが写っていた。

米軍横田基地内にある消火訓練場を示す地図が、公開されている米軍文書のなかにあった

「この広場の真ん中に機体があって、消火訓練ではそこに向かって一斉に放水するんです。ただ、このごろはもうやってないみたいですけどね」

基地内で流出した物質が多摩地区の地下水を汚染する

 横田基地は東京ドーム約150個分の広さで、東京・多摩地区の福生市、羽村市、昭島市、武蔵村山市、立川市、瑞穂町の5市1町にまたがる。このうち、消火訓練場は正面ゲートからもっとも遠い北東の角にある――。

米軍横田基地のゲート(東京都福生市で)

 そう聞いた私は、基地のフェンスに沿って国道16号線を北へ車を走らせた。しばらくすると、住所は福生市から羽村市、そして瑞穂町に変わる。住宅の建ちならぶ一角を折れ、視界が開けたところで車を止めた。畑のわきの細い道を進み、基地との境界まで近づく。

 すると、炎で焼けたような焦げ茶色の機影がフェンス越しにはっきりと見えた。消火訓練の的となる模擬飛行機だ。

フェンスから模擬飛行機が見えた

 のちに見つけた「CV-22(注:米軍輸送機オスプレイ)の横田飛行場配備に関する環境レビュー」という米軍文書には「消火訓練エリア」と明記されていた。

 模擬飛行機は、直径100メートルあまりの舗装された広場の中心に置かれ、まわりに芝生が敷かれている。訓練で泡消火剤を使えば、そのまま地表から土壌に染み込み、地下水を汚すことになるだろう。

 米軍文書にも、こう書かれていた。

〈基地内で流出あるいは放出されたものは、横田飛行場内の主な飲用水源となっている深部帯水層に最終的に行きつく〉

 横田基地では、井戸からくみ上げられた地下水が飲用に使われているのだ。そうであれば、米軍もまた水質調査をしているに違いない。

 私は、旧知のジャーナリスト、ジョン・ミッチェルの携帯を鳴らした。

 英ウェールズ出身で、神奈川県在住。大学講師との二足の草鞋をはき、日本の情報公開法にあたる米情報自由法にもとづいて入手した米公文書から、日本国内の米軍基地による汚染の実態を明らかにしてきた。

「米軍基地では消火訓練だけじゃなく、泡消火剤の漏出事故が繰り返されています」

 ミッチェルはこれまでに、嘉手納基地、普天間飛行場(沖縄県)、岩国基地(山口県)、厚木基地(神奈川県)、三沢基地(青森県)で起きた泡消火剤の漏出事故の記録を手に入れていた。