1ページ目から読む
3/3ページ目

「地下水は基本的に標高の高いところから低いところへ流れていきます。多摩地区の傾向としては、大雑把にいえば西から東へ向かっています。ただ、一部は北東へも流れている」

 実際の地下水脈はきわめて複雑だという。

「地面のでこぼこによっても影響を受けるし、深いところと浅いところでも流れは異なるんです。だから、簡単には語れないのです」

ADVERTISEMENT

 その後、地下水研究の草分けでもある新藤静夫・千葉大学名誉教授、東京都小金井市などでの活動実績がある山田啓一・法政大学名誉教授、府中市で化学物質のトリクロロエチレン汚染に取り組んだ小倉紀雄・東京農工大学名誉教授などを相次いで訪ねた。

 だが、結論は同じだった。

 調べてみないとわからない――。

 それでも、筑波大学名誉教授の榧根勇はこう言った。

「調べてみないとわからないが、調べればかならずわかる。地下水は逃げないですから。ボーリング井戸を掘り、濃度の高いところをたどっていけば水脈が見えてくる。でも、それには膨大なカネがかかるのです」

 財政負担の重さは、自治体が汚染源の特定に二の足を踏む理由だろう。しかも、と付け足した。

「米軍基地がからむ可能性があるとすれば、なおさらでしょう」

ある立川市の井戸

 見えない地下水脈を追いかけることをあきらめ、私はふたたび、横田基地周辺へと足を向けることにした。気になる情報があったのだ。

 地下水を管轄する東京都環境局が2010年度に初めて有機フッ素化合物について調べたところ、立川市内の井戸から272ナノグラムが出ていた。調査した都内237地点でもっとも高く、その後、東京都環境科学研究所(都環研)が調査を引き継ぐ形で調べていた。いずれも公表されていないが、東京都への情報公開請求によって明らかになった。

2015年度 569ナノグラム

2016年度 499ナノグラム

2017年度 453ナノグラム

2018年度 284ナノグラム

 2015年度の濃度は2010年度の2倍になり、しばらくして半分ほどに下がったとはいえ、2018年度でも8年前の水準と変わらない。それでも、現在の環境省の指針値(PFOSとPFOAの合計で50ナノグラム)と比べると5倍以上にあたる。

 有機フッ素化合物は分解されにくく蓄積されやすいため、いったん地下水を汚すと簡単には消えないのだ。

 この井戸はどこにあるのか。

 取材を重ねていくと、横田基地とフェンスを隔てて接する立川市西砂町の一帯だというところまで絞り込めた。そこで、消防庁が1968年に作成した井戸台帳などを参考に1軒ずつつぶして歩くことにした。

 あるとき、通りから奥まったところに大型の井戸を見つけ、飛び込みで声をかけた。すると、所有者らしい女性は仕事の手を休めて、言った。

「ああ、ここは横田(基地)の(汚染を調べる)井戸よ。東京都の人が調べさせてくださいって」

 横田基地から直線距離にして1キロあまり。のちに確かめると、都環研の調査地点と一致した。つまり、都環研が横田基地の近くで継続的に監視している井戸から高濃度のPFOSが検出されていることになる。

 それでもまだ、決定的な証拠とは言えない。

 文中一部敬称略/写真=諸永裕司