「だから、まだ開示されていない文書群のなかに横田基地の記録もあると思う。横田だけが例外ということは考えにくいですからね」
横田基地の地下水について知る手がかりはないかと相談すると、ミッチェルが教えてくれた。
「米軍は毎年、〈Drinking Water Quality〉というリポートを出しているんです」
ホームページを見ると、たしかに毎年7月ごろ、前年の水質調査結果を公表していた。
横田基地の2017年版(16年の調査結果)では、有機フッ素化合物を「新たに出現した有害物質」と表現していた。2016年に米環境保護局(EPA)が、PFOSとPFOAの合計で70ナノグラムとする健康勧告値を設けたことを受けて、この二つの物質も検査項目に加えられたようだ。結果は別枠に記されていた。
〈35.2ナノグラム〉
意外にも、米健康勧告値の半分ほどだった。
ただ、汚染の原因については「泡消火剤の成分」とし、地下水中の有機フッ素化合物は泡消火剤に含まれていたものと認めていた。
それ以降、濃度はどう動いたのか。ウェブで探しても見当たらない。胸騒ぎがした。
地元の市民団体や政治家などを訪ね歩いたものの、だれも情報を持っていない。それどころか、有機フッ素化合物という名前も耳にしたことがないという。その後、基地労働者たちのルートも途絶えた。あきらめかけたとき、SNSを通じて知り合った関係者から、2018年版(2017年の水質調査結果)が送られてきた。
隠されていた検査データをみると、濃度は前年の半分近くまで下がっていた。
〈18.7ナノグラム〉
とはいえ、この数値は飲み水のものだから、浄化する前の地下水そのものはより高いはずだ。また、調査した井戸が汚染源から離れているため濃度が低く出ている可能性もある。この数字だけからは、横田基地内の地下水が汚染されているかどうかは判断できない。
取材はまた振り出しに戻った。
地下水を追うと
気を取り直して、東京都水道局の水質検査結果に当たってみることにした。
横田基地の北に位置する瑞穂町、北西の青梅市、西の羽村市と福生市、さらに、南にあって飲料水を100%地下水でまかなう昭島市では、PFOSとPFOAを合計した濃度は一桁だった。
一方、基地の東にある立川市では、20年以上前に別の物質による汚染がみつかって浄水所を休止したため、濃度はわからない。ただ、さらに南東から東に離れた国立市や国分寺市、府中市にある浄水所では、取水を止めるほど高い濃度で検出されている。
いったい、地下水はどのように流れているのか。東京・多摩地区の地下水脈に詳しい専門家に聞いてみることにした。
公益社団法人「日本地下水学会」の会長だった谷口真人はかつて、東京都内の井戸を調べ、地下水等高線をつくっていた。京都にある総合地球環境学研究所の副所長。比叡山を望む研究所で、谷口は言った。