「料理やなくて、生命を維持するためだけのエサや」
初日に「思っていたより、おいしい」と感じた食事も、続くとキツく、イラっとする。ご飯もおかずも冷たい。しかも、なぜかすべてのおかずがエスニック風味だった。パクチーの香りも鼻につくようになる。
4、5日経つとユカさんが、「これは料理やなくて、生命を維持するためだけのエサや」と毒づき始めた。北村さんは、妙だが関西出汁の「どん兵衛」が無性に食べたくなり、関西在住の自分の親に送付を頼んだ。翌々日に届き、以降は夕食をどん兵衛付きとした。
洗濯はランドリーサービスの使用を禁止されていたので、お風呂で。手での洗濯は人生初。「どうせなら、遊びに変えよう」と、バスタブの中で、みんなで寄ってたかって足で踏んづけたりして洗った。手で絞らなければならないが、ユカさんが若い頃に貧乏旅行をした時の経験から、「タオルに洗濯物をぎゅっと巻いて叩いたら、脱水できる」と。上の子が喜んで手伝った。バスルームに付いているロープだけでは足らない上に、湿気があって乾かなかったので、入り口側のエアコンの吹き出し口から窓際のカーテン止めフックにロープを張り、洗い終わったTシャツや下着類を干した。
タオル・シーツ類の交換は「あり」だったが、電話で頼むと新しいものがドアノブに掛けられるだけ。
「私たちの部屋に入るのが怖いということでしょう。掃除もなし。ただ居るだけで、部屋って汚れるんです。窓が開かずエアコンをつけっぱなしの密室に、気分転換できずにずっといないといけなかったわけで、うら悲しい気分でしたね」
「繊細な人ならもたないと思う」
PCR検査の結果は、4人とも毎回陰性。まる10日間の「完全隔離」から解放された6月17日。ホテルを後にする時、外の空気を吸って深呼吸し、「ようやく(刑務所から)出所できた」と思ったと北村さんは振り返った。
「もう一度言いますが、水際対策の重要性は理解しています。でも、一律に陽性者とみなして何もかもきつく制するような、デリカシーのない粗いやり方の隔離はいかがなものか。WHOは感染してから症状を発症するまで5、6日とアナウンスしているのに、隔離6日目と10日目のPCR検査がなぜ必要なのか教えてほしいです」
自分たちは神経質なほうじゃないから、ぎりぎりメンタルがもったが、「繊細な人ならもたないと思う」と北村さんは確と言った。