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プロへの道、正解は「1つじゃない」

 近年は大学野球でも山川穂高、外崎修汰(ともに西武)らを輩出した北東北大学野球連盟の富士大などの地方大学が目覚ましい実力の向上を遂げている。また、高校や大学の卒業後の受け皿として全国各地に独立リーグもあり、国内ではなくアメリカなど海外にチャンスを求めに行く選手もいる。

 それだけにクロマツさんは「プロ野球選手のなり方が無数にあるからこそ、それもキャラ、個性になるんです」と言う。作中には甲子園優勝を狙う高校の“2番手投手”、プロにはなぜか行けない社会人野球のスラッガー、地方大学の隠れた逸材、高校野球をドロップアウトしてしまった有望投手などなど、様々な経緯の野球人が登場する。

 その中には、成功を収める者も入れば、挫折する者もいる。

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 だからこそ、クロマツさんの「正解は1つじゃない」というメッセージも随所にちりばめられている。特に『それぞれの選手ファースト』と題した章では、離島の大型左腕を巡って、郷原、高校の監督、特待生として獲得を狙う大学の監督、家族の思いが交錯する。

離島の大型左腕・仲眞大海を巡っては、プロ・大学などの争奪戦が起きる ©クロマツテツロウ/集英社

 目の前の勝利を取るのか、未来の活躍を取るのか。すぐにプロ入りすべきか、大学・社会人で力をつけてから入るべきか。全員に共通する正解は無い。昨今、話題の球数制限や勝利至上主義の問題にしても、そこには必ずしも悪役がいる話ではない。

スカウトに最も必要な要素とは…?

 この作品で感じる想いを一言で表すなら「プロ意識」だ。

 選手もスカウトも結果を残すための流儀や信念がある。クロマツさんがそれを「役割を意識している人」と評するように、自分にとって、チームにとって、選手にとって何がベストな選択なのかを考え抜く。その選択を正解にするための戦いが日々繰り広げられている。

 その戦いの中で、スカウトは選手のプレーに心を揺さぶられ、選手もまたスカウトの熱意によってプロ野球という厳しい世界に飛び込むことを希望するようになる。作品を描いていく中でクロマツさんは、そうした心を動かす「情熱」や「人情」がドラフト候補とスカウト双方にとって大事な要素ではないかと考えるようになったという。

 結果がすべてのシビアな世界だからこそ際立つそうした部分。そんなことも知ることができると、これから夏本番となる高校野球をはじめとしたアマチュア野球、そして選ばれし者が進むプロ野球により楽しみが広がることに違いない。

 ぜひこの夏を迎える前に『ドラフトキング』を熟読することをお勧めしたい。

 

撮影=杉山ヒデキ/文藝春秋

ドラフトキング 1 (ヤングジャンプコミックス)

クロマツ テツロウ

集英社

2019年8月19日 発売

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