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「普通の野球漫画」へのアンチテーゼ

 タイトルにもなっているドラフトキングの定義は「その年のドラフトで選ばれた選手の中のNo.1の選手」。たとえドラフト1位でもその後に活躍できなかった選手も多くいれば下位指名でもイチロー(ドラフト4位)や掛布雅之(ドラフト6位)のように、その後に球界を代表する選手になることもある。また、他球団の評価が低かったり、目を付けられていなかった選手を“一本釣り”することもスカウトの腕の見せどころであり、醍醐味だ。

 彼らの人生に寄り添い、原石を見つけ出すドラマには、多くの人が惹きつけられている。スカウトの人間性やバックボーンもそれぞれで、それぞれの正義やプロ意識を持って仕事に向かう姿もひしひしと伝わってくる。選手たちもそれは同じで、様々な環境に置かれながらも、憧れの世界と厳しい現実が待ち受けるプロ野球の世界に進むため、日々もがいている。ドラフト会議という人生が変わる舞台に向けての、選手・スカウト双方の葛藤や奮闘も描かれているからこそ、心を動かされるのだ。

©クロマツテツロウ/集英社

 今作を始めるきっかけとなったのはクロマツさんの「いろんな野球人を描きたかった」という思いが根底にあるという。

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高校野球だけじゃない、野球の魅力を描くには?

 人気の高い高校野球やプロ野球は企画も通りやすく、漫画作品も世に多く出ている。一方で、どうしても人気の劣る大学野球や社会人野球はフィーチャーしにくい。だが、そこにも熱い思いを持って取り組む野球人はいる。それを描きやすくする手段が「スカウト物語」だった。

 また、対象を1人の選手に絞って描ききる野球漫画は意外と少ない。今作ではそれができている理由を、クロマツさんは「アンチテーゼみたいなものもあるんです」と語る。

「野球漫画ってもうやり尽くされている感があるでしょう。それはなんでかというと3、4話目くらいには必ず『野球の試合』を描かないといけないという縛りがあるんです。野球に限らずスポーツ漫画の定石って、そういうものなんですよ。そうなると、必然的に多くのチームメイトのエピソードも描いていかないといけない。でも、スカウトを通しての話だったら、1人にバチっと焦点を当てて描けるんです」

 

 そして、1人の選手の人生が克明に浮かび上がるからこそ、それぞれのキャラクターに愛情が芽生える。それは選手の人生を背負うことになるスカウトもまた同じような感情を抱くのではないかと想像させられる。