前号ではご相談への回答に先立ち、コロナ禍に特に女性の自殺が増えているとみられる現状に鑑みて、こうお伝えしました。――孤独は人をネガティブにしてしまうことがある。感染予防のために家族や友だちとさえディスタンスを取らなければならず”独りでいる”ことになりがちな今、自分を評価する基準が知らず知らずのうちに偏っていないか。どうか偏った基準で自分はダメだ、生きている価値がないなどと決めつけないで──。
若い人の死因のトップは自殺
特に若い人の自殺が増えていることに関して、若い人自身にも周りの大人にもぜひお伝えしたいことがあります。厚生労働省の最新の人口動態統計(2019年)によると、15~19歳、20~24歳の死因の1位が自殺、2位が不慮の事故です。25~29歳、30~34歳、35~39歳の1位も自殺、2位はがんです。日本では、そもそも若い人の死因のトップは自殺です。
また、これまで自殺者は10年連続で減少していたのですが、女性の自殺が2年ぶりに増えてしまいました。男女合わせても、人口10万人当たりの自殺者数をみても、リーマン・ショック後の09年以来、11年ぶりに増加となったのです。
特に女性の自殺が増えている背景には、新型コロナウイルスの感染拡大による経済状態の悪化があると指摘されていますが、10~20代前半の場合は、別の事情も考慮する必要があります。
10代の脳は不安をとても大きく感じる
この年代の脳は大人の脳とかなり違うのです。最も異なる点がストレス耐性です。
私たちヒトは、ストレスを受けるとTHPというホルモンが脳内で分泌されます。このホルモンは不安を抑えるブレーキの役割を果たすのですが、10代の脳では逆にアクセルとなり、不安を増幅させてしまいます。そのため、何か不安なことがあると、その不安がとても大きく感じられてうまく対処できない。こんなことでは自分は社会に出てもうまくやっていけないのではないかと、悲観してしまうのです。
10年ほど前のことになりますが、インドでは「ヨーロッパで素粒子加速装置を使ってビッグバンと同じ状況を起こす実験が行われる。この過程でブラックホールが作り出され、地球を飲み込んでしまう」という報道にショックを受けた16歳の少女が、農薬をあおって死んでしまうということがありました。どうしてこんなことで死ぬのかと思うかもしれませんが、少女は世界が終わってしまうのではないかという不安に耐えきれなかったのでしょう。