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2021/07/10

source : ノンフィクション出版

genre : ビジネス, ライフスタイル, 働き方, 社会, 経済

「性的サービスをしている店は?」「そんなものないよ」

 ほどなくして現れた姿勢の良い初老の男性は、上半身に白衣を着て、髪を七三に分け、一見すると熟練マッサージ師のようだった。取材をさせて欲しいと伝えると「何? 何が聞きたいの。話してもいいけど、質問、書いて持ってきて」と早口で捲し立てられた。

 今ではほとんど新橋に来ないその中国人女性に代わって、実務一切を担当しているという男性に、その経営方針を聞きたかった。

「なぜニュー新ビルに同じような店舗をいくつも持つのか?」「客の取り合いにならないのか?」「マッサージ嬢はどうやって集めているのか?」「性的サービスをしている店があるか?」など、質問項目を書き出し、数日後に同じ店で男性を呼び出してもらう。

「同じような店だからって、例えばひとつの店で1日1万円稼げたら、10店あったら10万円でしょ? 掛け算でわかるじゃない。お客さんだって選べたほうが楽しいでしょう。女の子たちは、いろいろ。中国から来て働いている子もいれば、日本にずっと住んでいる子だっているし、日本人だっているから」

 訝しがる表情を崩さずに、なんでそんな単純な計算ができないんだとでも言いたげに、片言ではないが流暢でもない日本語で短く答える。それぞれの店の経営スタイルについても、「問題ない」としか言わない。「性的サービスをしている店があるか?」という質問には、「そんなものないよ」と即答した。

 ほんの10分ほど話すと、「もういいね」と有無を言わせず男性は行ってしまった。それは疚しいことがあるからというよりも、2階のマッサージ街に批判的な人たちにうんざりしているという感じだった。

マッサージ店受付 ©平松市聖

 10年ほど前に入国管理局による摘発が行われるまでは、2階のマッサージ店で働く中国人たちの中にはビザを持たない不法労働者もいて、店内のベッドで寝泊まりをしていたという。

 いまも申請を出せば店に泊まることはできるが、本来、通路に出ての客引きはニュー新橋ビルの規則で禁止されている。だが、時には向かい合う店のマッサージ嬢が通路に出て、客を取り合って大声で喧嘩をしていたりもする。それだけにマッサージ街をよからず思う人たちがビル内にはいるのだろう。

中国系マッサージ店の施術台 ©平松市聖

「そんなものないよ」と軽く否定されたが、店の方針なのか個人の判断なのか、“スペシャル”なマッサージを行っている店も確かにあり、マッサージ中に下半身に手が伸びてくることもある。「マッサージ、気持ちいいよ」という呼び声の後に小さな声で「スペシャルあるよ」と囁くマッサージ嬢もいる。