店長よりも長く在籍するヘルス嬢
風俗店〈ラズベリードール〉は、風営法が大幅に改正、施行された1985年(昭和60年)に営業を始めている。この年は店舗型の風俗店の認可が下りた最後の年であり、それ以降は企業として認可を受けた店は代替わりしても続けることができるが、個人経営の店はすべて一代限りで店を閉めなければならなくなった。
〈ラズベリードール〉の母体はほかにキャバクラや飲食店を数軒経営している企業で、風俗店はニュー新橋ビルのこの店しかない。店長の安孫子貴英さんは、新宿歌舞伎町や池袋で風俗店経営に携わってきたが、無認可で経営していた池袋のマンション内の風俗店に警察の手入れが入り、新橋へと流れてきた。
「池袋だと業界では名前も知られてしまっているからやりづらいなと。それで山手線を半分回った新橋なら、誰も知らないしと思ってバイトで入ったんです。歌舞伎町や池袋に比べたら、新橋の客層は楽ですね。サラリーマンは家庭もあるから、風俗でトラブル起こす人もいないし、定期的に来てくれるお客さんも多いですから。店の居心地が良いのかわかりませんが、僕より長く在籍している女の子がいるくらい。僕が入った時に18歳で、もう15年は経ってますから33歳かな。出勤のしっかりしている子って店にとっては大事なんですよ。こっちもつい頼っちゃったりして。今は時代の流れでどの店もホームページで写真が見られるようになっちゃったんで、女の子なら誰でも稼げるっていうわけじゃなくなってきてますね。それで少しでも指名を増やすためにブログを載せたりするんです。するとある程度の常識も求められるから、脱げば稼げるって思ってる女の子たちはちょっと淘汰されてますね」
素性を明かさずに潜り込める風俗店はほとんど存在しない
ホームページの話になったところで、先日見つけたスタッフのブログについて尋ねてみる。(編集部注:ラズベリードールのHPでは、在籍スタッフのブログのほかにスタッフによる闘病記が更新されていた)
「ガンが治ったら良いなと思ってるんです。ネタとまでは言わないですけど、本人が開き直ってるんで、書きたければ書いたらいいと思うんです。それに、治っちゃったら良いじゃないですか」
顔を写さないよう言われたことを話すと、「まあ、いろいろありますから」と言葉を濁した。あの店員は、店長の旧友なのだという。
他人に言えない何らかの事情を抱える人にとって、かつて風俗店は働きやすい場所だった。寮のある風俗店も多く、入寮してしまえば暮らしも安定して次の生活を考えることもできた。しかし、今では従業員名簿を作成するために、本籍の記された住民票が必要で、素性を明かさずに潜り込める風俗店は東京にはほとんど存在しない。