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「頑張っているのが、バカバカしく思えてくるんだよね」

「夏に入ってくらいかなぁ。また、彼女たちが立ち始めた。まあ、あの人たちだって稼がなきゃならないから仕方ないんだけど、ただうちらの仕事に差しさわりあるのは勘弁。店の前の階段とかで、普通に化粧直ししたり、休んだりするから、ただでさえ少ない客が入りづらくなっちゃうんだよね」

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 このようなボヤキを筆者は他の店のスタッフからも聞いた。確かに中国人だから、商売人だからを問わず、自店の前にたむろされるのは迷惑行為に違いない。しかし、実のところこのようなボヤキというか苦情は、コロナ禍以前から度々耳にしていた。要するに、コロナで客が来ないなか、小さなマイナス要因でも許容できないという心境になっているのであろう。その立場になってみればわからなくもないのだ。

 逆に中国人立ちんぼからすれば、コロナ禍の前はインバウンドの自国人(中国人男性)という新たな金脈を見つけて潤っていたのが、一転してこのどん底である。背に腹は代えられない、と強引になる面もあるのかもしれない。

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 非難の的となっているのは、もちろん、立ちんぼばかりではない。なにかと話題のホストクラブに対しても怨嗟(えんさ)の声が聞かれる。ホストクラブ密集地(歌舞伎町二丁目)の飲食店スタッフがいう。

「彼らも仕事だし、お客さんでもあるからあまり悪くは言いたくないけど、一部のホストの振る舞いには正直頭にくることもある。明け方などに、ベロベロになったホストと客の女の子が、密着して大騒ぎしているのを見ると、俺たちがソーシャルディスタンスとか、消毒とかマスクとかで頑張っているのが、バカバカしく思えてくるんだよね」

 スタッフがいうように、これらは一部ホストの振る舞いではあるが、真面目にやっていればいるほど、バカバカしくなるような、ザラっとした気持ちになるのであろう。そして、大部分の歌舞伎町の営業者は「夜の街」大批判のなか、このスタッフのように、身を削る努力を続けているのだ。

 元来、歌舞伎町というのは人間関係が希薄のようで、一種、村的な繋がりもある場所だ。それに亀裂が入るような状況をもたらしたコロナ禍は、まさに厄災と呼ぶ以外に言葉がない。

歌舞伎町コロナ戦記

羽田 翔

飛鳥新社

2021年6月1日 発売