「神の国、そこには人類はいない、人がいない世界なのだ!! 」
おじいさんはA4サイズの紙とハサミを取り出して机の上に置いた。紙を複雑な形に折りたたむ。
「このように紙を折って、そしてハサミを入れると、なんと……十字架になるんだ!」
たしかに、紙を戻すと十字架の形になった。
「そしてなんと……残りの紙片を戻すと、『HELL(地獄)』の文字になるのだ!!」
かなり強引だが確かにHELLになっている。
「これが発見された時、全米が絶望に打ちひしがれたという……」
そんな話は聞いたことがない。
「しかし私は新たなる並べ方を発見したのだ! これをこう並べると『日本』になるのだ!!」
HELLよりもさらに強引だが、一応日本という形にはなっている。
「そうなのだ!! 日本は特別な国なのだ!! 自覚せよ!! 日本は宇宙の神、数千億の星を支配する神のおわす国なのだ!!」
おじいさんはどんどん激昂していく。
「私は神に聞いた。なぜ神は世界を創ったのか? と。すると神は、世界など創っていないと言ったのだ。私は驚いた!!」
こんな話が延々と続いていく。
すでに日は落ちて室内はかなり暗くなっている。おじいさんとの距離感が分からなくなり、頭が痛くなってきた。
話の途切れた頃合いを見計らって、ここは具体的には何をする道場なんですか? と聞いてみた。
「ここは神の国が来る日を自覚する道場なのだ」
……神の国ですか。
「神の国、そこには人類はいない、人がいない世界なのだ!! 私たちは人類を終わりにする仕事をしている。もうすぐその時が来るのだ!! 今日会えたのも運命、来る日に備えなさい!!」
と一気に語り終えた。
編集さんが小さい声で「……もろにカルトじゃないっすか」と囁いた。
「よし、下まで送っていってあげるよ」
しかし、話が終わるとなごんだ雰囲気になり、
「ご飯食べていきなさい」
と、おばさんが夕ご飯を出してくれた。
今日は買い出しに行ったから、いろいろあってよかったわ、と目の前に皿が並べられる。
混ぜご飯、ジャガイモの煮物、漬け物、だった。味は悪くないのだが、冷たかった。
室内はすっかり暗くなって、顔の判別がつかなくなっている。なんだか悪夢の中にいるような気持ちになってきた。
ただ、これは夢ではない。現実であり、このあと麓まで戻らなければならない。今はまだギリギリ陽光があるが、すぐに真っ暗になってしまうだろう。樹海の夜は経験済みだが、懐中電灯を持っているとはいえ、あの闇の中を歩くのは不安だ。
「よし、下まで送っていってあげるよ」
と言うと、おじいさんは立ち上がった。
最初に見つけたガレージを開けると、立派な4WDの自動車が収納されていた。樹海の山奥で暮らす修行僧のイメージと、4WDの自動車はかけ離れていたけれど、とにかく助かった。
自動車で下るにはかなり激しい道程だが、さすがに慣れているようですぐに麓に着いた。
僕らはおじいさんに礼を言って帰宅した。