「今大事なプロジェクトが進行中なのよ」
かなり年配のおばさんが立っていた。
「あら~、何、ここを尋ねていらっしゃったの?」
と聞かれた。はい、噂を耳にしまして……と正直に答える。
「普通の人なの? 学生さん?」
とりあえず、学生ではないです、普通の人です、と答える。
「そうならばいいけど、今大事なプロジェクトが進行中なのよ。だから外部に情報が漏れるのはヤバイのよ」
と言われた。なんと答えていいか分からず愛想笑いをしていると、とりあえず中に入って、と招き入れてくれた。
「あの人ちょっと出かけているから、帰ってくるまで待っていらして」
と居間に通された。屋内はかなり広い。居間の隣の部屋は修行部屋だという。
仏壇が設置されており、その横には黒板が置かれ、仏陀の逸話が解説されていた。表の貼り紙を見て、なんとなく神道系なのかな? と思っていたので少し意外だった。
しばらく、じっと居間で待っている。出してもらった茶と茶菓子を食べていると、ガラガラと戸が開き、僧形のおじいさんが帰ってきた。さきほどのおばさんが、僕たちがここにお邪魔している事情を説明する。
「こうして会えたのは運命だね!! 運命なんだ」
「そうか。待たせて悪かったね。昨日までは他県にいたんだ。こうして会えたのは運命だね!! 運命なんだ」
いきなり熱く語りだした。
「ここは道場なんだ。道という漢字の意味が分かるかね?」
突然の質問に、「え、ああ……分かりません」と、しどろもどろに答える。
「辶(しんにょう)は車という意味なんだ。米を車に載せたら『迷い』になる。そして首を載せたら『道』になる。道場に来るならば、真剣になって首を持ってこい!」
おじいさんはいきなり荒ぶった。
これは厄介な所に来ちゃったぞ……と自覚する。背中につつっと汗が流れた。
おそるおそる、どうしてこの場所で新興宗教を始めたのかを尋ねてみた。
「ワシは太平洋戦争で死ぬ気だったんだ。しかし入隊した途端、戦争が終わってしまった」
目的を失ってどうしていいか分からなくなったおじいさんは、自殺しようと思って樹海をさまよった。10年間さまよった挙げ句、この場所にたどり着いたそうだ。
「最初は何もない場所だったが、里の人達が、死なれては困ると言って小屋を建ててくれた。そして修行をしたのだ」
一時はここに通ってくる信者もいたらしい。麓から歩いて4、50分かかる場所だ。通ってくる方も大変だったろう。